四百四病の外 6「まったく・・・よくこんな状況で仕事できるな。」 「逆だよ。散らかってないと仕事できない。」 あっさりと言い放ち、デスクトップの電源を切ってから佐々木は工藤に向き直った。 「で、こんな所に来る位だ大事な用なんだろう?」 片方だけ唇を歪めて笑う姿はとても一般人には見えない。 ジゴロにしては迫力がありすぎるし、警察関係者にしては色がありすぎる。 「・・・これだ。」 差し出した調査報告書を受け取り、驚異の速さで読み終えると懐から煙草をだして探す。 だが切れていたらしく舌打をした。 酒井が黙って新しい煙草を差し出し火をつける。 「吸い過ぎですよ。」 「今更だ。」 そうして煙草一本をゆっくりと吸い終えるまで沈黙が続く。 否、酒井は掃除を続けているのでその音はしていた。 だが誰も何も喋らない。 「酒井。」 吸い終えた佐々木が口を開く。 「はい。」 「何でマルボロじゃねぇんだよ。」 「ボスが吸いすぎて近くの店は全て売り切れだったからです。」 「だからってメンソールはねぇよ。」 「自分なりの抗議ですから。」 笑顔で言うと淹れたての珈琲を工藤と佐々木の下に持ってきて、空のカップを回収する。 流石、常に傍に居るだけあって図太い。 「そーかい。そーかい。じゃあ、給料減らす。」 「どうぞお好きに。その代わりまゆみちゃんに10日前の所業全てばらした後明菜さんにこっそりアレをリークしますよ。」 佐々木の眉間に深く線が入り、黙り込んだ。 「それで?」 助け舟を出したかったわけでは無いが、話を促す工藤に佐々木は苦笑して乗る。 「確かに関連性は無いな。」 「ああ。」 「だが、繋がりはなくても重なる事はあるだろう?」 性悪の笑いを浮かべる佐々木に工藤は頷く。 「そうだな。それにしても関連が無さ過ぎるんだ。」 その言葉に佐々木も頷く。 「確かになぁ。まあ、これは調べておくよ。お前が雇っている所から調査報告書が上がってきたらここにFAXしてくれ。酒井が受け取るから。」 人数はともかく規模の大きい三和会の幹部であるにも関わらず寂れた場所にある古いビルの一室を借りて事務所としている変わり者の佐々木は基本的に此処で働かせているのは酒井だけ。 そう考えると常に傍に置いている酒井は優秀なのだろうかと工藤は考える。 「他は連れて来ないのか?」 工藤の質問に佐々木は先程の性悪笑みを引っ込めて飄々とした顔を作った。 「店とかまかしているからなぁ。」 そうしてまた煙草の火を付けて吸い出す。 「自分が雑用しか向かないので置いてもらっているだけなんですよ。店を任されても潰しかけて・・・・。」 横から酒井が苦笑しながら自分が駄目であるという。 「他の兄貴達は皆それぞれやっているんで此処に来る暇が無いだけで、本部の部屋には挨拶されています。」 細身、というわけでは無いが凡庸な顔立ちの酒井の苦笑したままの顔を見ながら佐々木は何でも無い事の様に言いながら美味そうに煙草をふかす。 「人間向き不向きがあるってもんだ。上の人間はそれを知ったうえでうまく使わなきゃいけないんだよ。」 だが息を吹き出してから舌打をし、殆ど吸っていない煙草を吸殻が一つしかない灰皿に押し付ける。 「メンソールなんて吸った気がしないなぁ・・・・酒井。工藤を送り出してがらマルボロ買って来い。メンソールなんざ買うなよ。」 暗に帰れと工藤に言ってから手元にある書類を掴んで視線を落とし、それきり口を開かなくなった。 酒井は溜息を吐き、工藤に済まなさそうに謝る。 「本当に・・・・失礼ばかりで。」 来客中なのに掃除して、煙草を吸わない相手の前で煙草を吸う。 確かに失礼極まりない行為だったが工藤は佐々木がそういう人間であるという事と酒井が気が利かない人間であることを知ったので気にしない。 「いや、いい。あいつは元からだしな。」 ビルの外まで見送られて車に乗ると見送りもそこそこに酒井が走っていくのが見えた。 前へ 次へ 創作目次へ |