四百四病の外 5譲は容姿でもてる・・・わけでは無いが人気はあるし、その人となりを知った人からは慕われ恋をされる事もある。 だがその大半は三和会の長である椎原の情人であると同時に本人も椎原への愛情を隠そうともしない事をよく知る者達ばかりなので忍ぶ恋で通すか諦めるかしているのだ。 「譲さん、どうされましたか?」 都心部のカフェにて休憩をしていた譲がふ、と窓の外を見回すのを見て宇治が声を掛ける。 「うん。何だかこの頃視線を感じるから・・・・。宇治さんはどの辺りから感じますか?」 宇治がそんな妙な視線を気付いていない筈が無いという信頼感ゆえの発言に微笑みそうになるが、視線の主が気になっていた事もあり表情を引き締めて答えた。 「四方からですね。人混みにいる時に限ってですが、人が数人居りますので只今捜査中です。」 「そう・・・ですか。でも統一した視線の様な気がして・・・。」 僅かに俯く譲に宇治は安心感を与える為に笑みを作ってみせる。 「ではその方面でも調べておきます。何か気付かれましたら遠慮なくおっしゃられてください。」 宇治の言葉に安堵の息を吐いて微笑む譲に頷くとさりげなく窓の外を観察すると、其処には直感通り一人の男が此方を窺っていた。 大体見張っている男は4,5人で、三和会関係だろうとそちら方面で探していたのだが譲の言う通りなら探偵を雇った方が無難だろうとあたりをつける。 譲が本を読みながら珈琲を飲んでいる間に宇治は工藤に連絡をした。 (もし、本当なら・・・・譲さんに目を付ける趣味の良さは認めるが、図々しいにも程がある。ああ、あいつら全員簀巻きにして沈めたいっ。) 吐き棄てたいのを我慢し、何か感じたのか顔を上げて宇治を見る譲に安心させる為に笑みを向けて毒々しい内面を完璧に押し隠す。 「工藤さんに連絡しておきましたので直ぐに大丈夫になると思いますからご安心下さい。」 「有難うございます。」 普通なら譲と宇治の場合こういった件の会話はこれで終わる。 だがそれで終わらなかったのだ。 『男達の関連性は判明できず。続けて調査に当たる』 工藤の下に届いた調査書はそんな内容で締めくくられており、譲に付きまとう大半は組関係だったがその他がどうしても関連性が無いのだという結論に達していた。 男達の出入りする店、職業、通勤路等まったく関連性が無い。 「・・・どうなっているのだ・・・。」 ついでに言うと若干同性愛者が多いが利用している店も殆ど重ならない。 職種も違えば交友関係も違う。 借金がある者も居るが、した事すらない者いる。 全くと言っていい程繋がりが無いのだ。 何処かの飲み屋で意気投合したという可能性も無きにしも非ずだが、それだけでは非合理的過ぎる。 工藤は眉を顰めて調査書を見ながら考え込む。 こういう時は意外な意見を出す佐々木の所だと工藤は決めて立ち上がり、自分の部屋を出た。 「どちらへ行かれるのですか。」 左右対称の完璧な笑顔で尋ねてくる椎原の第二秘書に頷くだけで去っていく姿を甘い溜息で見送られた事を工藤は知らない。 まっとうな企業である会社なので物騒な所を表に出さない工藤だが、滲み出るものはある様で其処が良いと女性社員に大人気である。 飄々としている上に男を恋人にして人目を憚らず熱愛している椎原にモーションを掛ける女性があまりいないという事もあるだろう。 椎原の秘書長をしている工藤だが、実質的なナンバー2である事は誰もが知っているので未婚の女性にはとても魅力的な物件でなのだ。 疎ましい秋波を受けながら工藤が訪れたのは小さな事務所。 とりあえずノックをしてから開けるとパソコンの前に佐々木がだらしなく座っている。 ネクタイは解かれジャケットはソファーの上、伊達男という言葉が似合う容貌は無精髭が覆っていた。 「なんだその格好は」 工藤が言いたくなるのも仕方ない。 傍らに居る酒井は三つ揃えの格好で髭もきちんと当たっているにも関わらず、であったからだ。 といってもその上にエプロンをしているのだが。 「いや〜忙しかったからねぇ。」 灰皿の上には隙間なく煙草がささっている。 室内換気は先程したばかりなのかけむたくないのが唯一の救いだ。 「工藤幹部!すみません、今掃除中なんで散らかっていますけど」 言いながら指定ゴミ袋をいくつも抱えてごみの分別をしながら片付けている。 「お前も大変だな。」 工藤の言葉に酒井は苦笑してから首を振った。 「いえ。そういえば工藤幹部は佐々木さんの修羅場見たことなかったんですよね。今回はまだましな方なんですよ。」 明るく言ってから手早く掃除を続ける酒井を見るとこれが日常風景なのだと匂わせている。 前へ 次へ 創作目次へ |