四百四病の外 4それを監視カメラで観察していたのは三和会幹部の面々。 当然、椎原、工藤、佐々木だ。 「ほぉ〜。生意気だな。」 椎原が譲の隣に座ってから抱え上げて、いつもの体勢をになると面々も座って宇治がタイミング良く運んできた珈琲を口にする。 「雅伸さん?」 監視カメラの映像は譲が座っている位置からは見えない為に椎原の言葉の意味がわらかない。 「譲。お前泰一をどう思う?」 同じく組を持つ人間ではあるのだが、本人の格が違う上に泰一はまだ20代。伊藤前組長と分けるためにも身内だけの時は呼びすてていた。 「泰一さんって、さっきの伊藤組長ですよね?」 「ああ。」 譲は鈍い人間では無い。それどころか人の感情の機微には恐ろしいほど敏感である。あえて知らない振りをする事が多いが、下手をすると誰よりも他人の感情の機微に聡いのではないだろうかと椎原は思っていた。 椎原を艶やかな瞳が見つめ、それから苦笑する。 その苦笑が答えとなり、椎原は譲の首元へとキスをした。 「仕事中ですよ、会長。」 工藤が言うがそんな事くらいで椎原は止まらない。 「譲が可愛いのが悪い。」 首元へのキスだけでは無く舌で上に辿るように舐めてから、顔の輪郭を辿る。 譲はそれを目を細めて甘受し、重なる唇に自分から口を開けて舌を絡ませていく。 此処に居るのは工藤、佐々木、宇治だけで、慣れている人々ばかりという事もあり淡々と会話が進む。 「まあ、伊藤組長の意図や感情はどうであれ利用できるならしたいが・・・・。」 佐々木のあっさりとした答えに工藤は鋭い目線を向けるが、とりあえず何も言わない。 伊藤組は古参の組ではあるのだが、はっきりというと毒にも薬にもならないのだ。特に今の組長に変わってからは。 貸し金、ショバ代、祭りの運営費で組の経営が成り立っている伊藤組と、その殆どがまっとうな会社経営で成り立っている三和会では接点が無いに等しい。 共通する事は薬、拳銃の販売には手をだしていないという所位だ。 もっとも、表立っては会社経営のみだが、裏の裏の仕事をしている三和会は物騒極まりない。“処理班”の存在は三和会でも一部の者達しか知らない事実なので。 だから他の傘下の者達からは現伊藤組長と同じく若手が上を治めている組の一つとしか思われていない。 そして譲はその事実を知らない。 知らされてはいないから知らない筈である。 「利用云々は考えない方が無難だろう。それより・・・・会長。此処で本番始めないでください。」 椎原は譲を押し倒して袂に手を深く入れている格好のまま口元を歪めて笑う。 譲は唇を噛んで声を出すのを堪えていた。 「駄目か。」 「駄目です。マンションの戻ってから再開してください。」 その言葉にわざとらしく溜息を吐き、譲にキスをしてから身を起こす。譲の手を引いて同じく起こしてやると何事も無かったかのように珈琲を飲みだす椎原は流石と言うべきか。 裾も袂も襟も乱れている譲の格好は目に毒だが、皆軽口を言いながら笑っている。 「譲さんも会長相手で拒めないのは分かりますが、今は話合い中ですので頑張って抵抗してくださいね。」 ほのかに赤い頬と潤んだ瞳、甘い吐息のまま着物を調える譲を手伝いながら工藤が優しく諭す言葉に譲では無く椎原が答えた。 「逆だな。抵抗されれば燃えるに決まっているだろうが。な?」 工藤が譲を見ると目元を赤く染めて目線を横にずらしている。 どうやら口では無く態度で抵抗していたらしい。 「・・・・今度は私の名前を呼んでください。」 恥ずかしさのあまり口を開く事が出来ない譲は工藤の親切言葉へ微かに頷いた。 前へ 次へ 創作目次へ |