四百四病の外 11





「う〜ん。結果から言うと・・・・本物のストーカー。つまり一般人デシタ。」

 最後は棒読みでそう言う佐々木にその場に居た面々の眉間に皺が寄る。

 適当というよりはつまらなさそうな物言いとだらしなく体をソファーに貼り付けながら珈琲を飲む姿とその内容に。

「正真正銘の一般人、か・・・。」

 部屋に沈黙が下り、誰もが黙っている中椎原が口を開く。

「佐々木。お前の勘はどう告げている。」

 すると佐々木は珈琲をソーサーに戻して若干乱れた髪を整えながら答えた。

「微妙ですね。2,3組固まっている様な気がします。」

 あ、でも素人が多いかも?と言う佐々木に工藤は目を細める。

「おい、その顔やめろよ俺の小心な心が悲鳴を上げるだろうが。」

 大嘘を吐きながらカップを再び持つ佐々木に部屋に入る全員が冷めた目を向けた。

 ちなみに室内には椎原、工藤、佐々木、木戸、酒井、宇治が居る。

 譲は只今明菜の店に言って仕事中。

「お前の何処が繊細だ。お前が繊細なら世界中の人間が微塵の神経だろうな。」

 極少、では無く微塵。

 工藤の口は佐々木相手になると益々毒を吐く。

 酒井は目線を逸らしながら空になった佐々木のカップに珈琲を淹れる為に部屋の隅へと移動する。

「それはともかく早急に見つけて欲しいものだな。」

 椎原の言葉に全員が頷き、宇治は上がってきた報告書等を読み上げると会談は終了。

 僅か15分間だった。

 それから宇治は木戸と共に椎原の護衛も兼ねて明菜の店へ。

 エステサロンを経営する明菜の店は客層が女性のみなので普段なら絶対に行かない場所なのだが、今日は定休日なので好奇の視線に晒されることはない。

「譲。」

 声を掛けると受付にも事務所にも譲はいなかった。

 店休日なのでスタッフも居らず、誰も受け答えをする者がいない。

 3人で歩いていると、漸く人の気配をかんじて扉を開ける。

 すると底にはうつ伏せ半裸の状態で譲が眠っていた。

 もちろん一人では無い。

 明菜が譲をオイルマッサージしていたのだ。

「会・・・では無く椎原社長。宇治さんも。今眠られておりますのが如何致しますか?」

 小声で囁く明菜に手を上げて椎原は譲に近づき、僅かに開いた唇に自分の唇を重ねる。

 明菜と宇治の視界には唇を重ねているだけでは無く、椎原の舌が譲の口の周りと歯列をなぞっているのが見えた。

 もちろん意図しての事だろう。

 そのキスを受けたことによって譲は目を覚ましたらしくゆっくりと瞳が開かれた。

「まさのぶさん・・・?」

 寝ぼけ眼で問う譲の声に椎原は微笑んでから今度は深いキスを。

 反射で応えている譲に満足した椎原は上に掛けられているタオルを巻いて譲を前に抱える。

「浴室はあるのか?」

「え、あ、いえ。ですがマッサージは終わっているのでそのまま帰る事が出来ます。」

 一瞬慌てたが、直ぐに仕事仕様の声で言う明菜に椎原は頷き皆が部屋にいる前で甲斐甲斐しく譲に単衣、着流しと着付けていく。

「今日は調子が良いのか?」

 足の事を聞いてくる椎原に微笑で頷くと椎原は最後に帯を締めて羽織を着せ掛ける。

「そうか。では出掛けるとしよう。こんな昼日中に仕事が終わるのは珍しいしな。それに明日も休みだ。いつもの所に予約が取れたからゆっくりしよう。」

 その言葉に譲は喜色満面の花の笑みを浮かべて椎原の首に腕を回す。

「明日お休みですか?」

「ああ。」

 確認する譲の言葉に頷くと頭を胸元に凭れさせ、心音を聞くかの様な体勢を取る。

「嬉しい。」

 心底喜んでいる事が分かる譲の声音に椎原は膝と背中に手を当て抱え上げると熱烈なキスをはじめてしまう。

 そうなると二人揃って衆目など気にもしない。

 宇治と木戸は職務上控えていなければならないし、明菜は二人が立ち去るまで見送らなければならず、気まずい雰囲気のまま二人の熱烈なキスシーンが終わるのを切に願うしかなかった。

 











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