愛し恋しと鳴く鳥は 8湯治というには短すぎる期間であったが、二泊三日の旅館泊まりは二人にとって充足した期間となり、命の洗濯となったようで其々の職場に戻って顔色が良くなった、肌が艶々している、元気だ等からかわれる事となった。 だが周りの人間は単純に旅行(若しくは命の洗濯)とは思う筈も無く、密談の為に体裁を装ったのだろうと宿泊中は外に怪しい人物達がぞろぞろといたのである。 「で、命の洗濯と同時に何をしたんだお前は。」 溜息を吐きながら胡桃を剥く姿さえ一幅の絵になっても美しいであろうと思われるカウンターに座る佳人。 笑いながら隣でウイスキーのストレートを飲む椎原に目線を流して、またひとつ溜息。 「どうせ安藤を、という事なんだろう?」 「ご名答。」 「ここ数日の流れを考えれば当たり前だ。」 お前の思考のパターンなんて知りたくもなかった、と胡桃を剥くのが面倒になったのか安藤にそれを投げつつ答える瑞樹に貸してくれないか、と言うと渋面を作り僅かに俯く。 「・・・何日だ?」 「それは分からないが、一ヶ月はかからないと思うぞ。」 照明に反射して光る、瑞樹の艶やかな髪が揺れた。 「それは困る。毎日返してくれ。」 「安藤が疲れると思うが?」 「場所は譲さんの所なんだろう?だったら問題無い。」 椎原は静かにだがはっきりと言い返す瑞樹を見て安藤を見た。 「どうする?」 「私はどちらでも。」 「良くない。一ヶ月以内で、毎日とは言わなくても二日に一回は帰ってくるならいい。」 椎原は眉間に皺を寄せると安藤が近寄ってきてその条件でなら私もいいですよ、と微笑む。椎原は試したことは無いが彼自身の噂は凄まじいの一言に尽きる実態は今は微塵も伺わせない。 「一ヶ月も安藤がいないと私が困るからな。」 「そうですね、私も楽しくありませんし。さて、椎原さん。私はドレスの方が良いのでしょうか?」 「どっちでも良いぞ。譲の店は今は男女混合だからな。」 いくつかあった店の一つと統合したネコ、タチ、同性、異性取り混ぜているのである意味カオスなのだが品がある店となっているのはオーナーが譲だからか。 安藤は頷いて、では女性の格好で名前も変えなければいけませんねと呟く。それに椎原が頷くのは当然と言えた。 「固定客はやめてくれよ?」 「そうですねぇ、瑞樹のお気に入りの譲さんを困らせるのは得策ではありませんから。」 性格の悪い一言に椎原は深く溜息を吐いた。 前へ 次へ 創作目次へ |