愛し恋しと鳴く鳥は 6



 



 「笑い事ではありませんよ、譲さん。」

「すみません。」

 穏やかな声で小さな笑い声を立てる譲に一度は工藤も眉間に皺を寄せたのだが、結局は共に笑ってしまう。

「まあ、確かに笑ってしまうかもしれませんね。」

 互いに交わす視線は穏やかでありながらどこか、互いの腹の内を見る様でもあり宇治の眉間は寄った。

 だが二人の間に流れる雰囲気は柔らかく、信頼している者同士特有の空気を発している。そこに宇治の入る余地は無い。椎名とはまた違うものだ。だが宇治と譲の間にも確かな絆がある。奇妙な、だが心地よいとも言える雰囲気に部屋は満たされていた。

 心地よい天気なのに、交わされる視線は季節とは正反対というよりはおぞましいというべきであろう広間とは一線を化して。

 そんな中に早々に退散したのであろう、椎原が入ってくる。

「腹黒く見えるぞ工藤。」

 僅かに苦笑を混ぜたその言葉に工藤は満面の笑みを見せた。

「私がですか?」

 心外です、と言わんばかりの言葉に椎原は笑いながら頷く。

「工藤さんは穏やかそうに見えますか?」

 首を傾げる譲に工藤は優しい目を向けた後、しっかりと頷いてみせた。

「私は一見で腹黒に見られる程阿呆ではないのですよ。」

「腹黒い所は否定しないんだな。」

「でなければあなたとなんて一緒にやっていけませんからねぇ。」

 ねぇ、と譲に顔を向ければこちらも苦笑をし、控えめながらしっかりと頷き返す。

「酷いな、譲まで。」

「ごめんなさい、否定材料が全く見当たらなかったんです。」

「まあ、否定はしませんが。」

「でも、優しい人には優しいからそれでいいと思いますよ?」

「ですよね。」

「だな。」

 笑う3人に控える宇治。椎原、工藤に仕える者達はいるので今現在も傍らに控えているものの、彼等は微塵も動かず気配すら希薄であるので4人の気配しか感じない。

 ひとしきり笑った後、さて、という椎原の声に工藤の柔和な顔の目が僅かに光る。そうして譲は静寂、という言葉に相応しく静かに微笑んでいた。

「しばらく外野が煩くなるが注意してくれ。佐々木には・・・・お前が言うか?」

「いえ、貴方から言ったほうが良いでしょう。」

 そうだな、という静かな声と共に譲は僅かに苦笑する。

「佐々木さんだけ除者ですか?」

「そうだなぁ・・・・どうなんだろうか。」

「そうなのではありませんか?」

 なぁ、と傍らに控える部下に声を掛けると厳つい顔が僅かに綻んで、は、とまた強面に戻っていく。椎原の後ろに居る男は頭上に疑問符が飛んでいるが彼の疑問に答える者はいない。

「・・・さて、面倒な事も終わったことだ。久々に湯治に行くとするか。」

 笑う椎原に譲の面が喜色を浮かべる。

「良いのですか?」

「たまにはいいだろう。有能な補佐殿がいることだしな。」

「ええ、この頃譲さんは一人で出立が多かったのですから、たまには頑張りますよ。その代わり落ち着いたら私とも出かけてくださいね。」

「勿論。水族館なんてどうですか?白イルカの赤ちゃんが生まれたそうですから。」

「それは楽しみですね。」

「はい。」

 和やかな会話。階下では黒い会話。

 まるで俗世から隔たった様な話をする3人に宇治は、思わず自分が所属している世界を考えてしまうのであった。






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