肝胆、相照らす 5





「え、いいの、ですか?!」

「勿論。積もる話は尽きる事が無いしな。」

 頷く真田に譲は頷きそうになったが自分の立場を重々承知しているのであっさりと頷く事は出来なかった。

「あ、でも僕は仕事があるから・・・・。」

 少し俯いてしまった譲に対して椎原は胸を打つものがあふれてつい口を開いてしまう。

「行って来たらどうだ?真田さんはアメリカ在住と言う事で滅多に会えないだろうしな。」

「え?」

 驚愕の顔をした譲が慌てて椎原の顔を見る。

「行って来るといい。」

「雅伸さん・・・。」

 慈愛の笑みに感動の瞳がぶつかり、辺りが濃密な桃色に包まれた。

 思わず目を逸らす椎原の護衛達。

 唇と唇の距離が狭まり、重なろうとした瞬間。

「じゃあ、譲がどこがいいと思う?」

 真田の明るい声が響いた。

 安堵の息を吐いた瞬間、青褪める護衛陣。

 譲は慌てて椎原から顔を離して真田の方を向く。

「ぼ、僕は温泉に良く行きます。雅伸さんが別荘を持っていますし、他の所に湯治に行く事も多いですが・・・。」

「温泉か〜。じゃあ、温泉に浸かってゆっくりしようか。な?」

「は、はい。そうしましょう。」

 椎原の腕は譲の腰に手を回したままだったがその顔は無表情で眼光鋭くなっている。

 宇治と木戸すらも思わず目を逸らす。

「雅伸さん、いいですか?」

 が、譲が尋ねた瞬間、その極悪な眼光は柔らかいものへと変化した。

 護衛が安堵の息を吐く。

「なにがだ?」

「別荘に滞在しようかと思いまして。真田もこれから忙しくなりますし、ゆっくりしたいでしょから。駄目ですか?」

「いや、大丈夫だ。」

「良かった。有難う御座います。」

 花の笑みを見せる譲に椎原が笑う。

 出会ってから既に何年も経過しているにも関わらず未だに熱い雰囲気を持つ二人はその笑み一つで気持ちが上下する。

 あっという間に機嫌の直った様に見える椎原に譲は笑みを浮かべ続けて背中に手を回した。

「じゃあ、俺は此処で帰るな。向こうで読む本でも探したいし。」

「じゃあ、電話します。」

「宜しく。」

 手を振ってから去っていく真田を見送ると護衛陣はゆっくりとした足取りでゲストルームへと移動する。

 これから起こる出来事を把握出来ない護衛など此処には居ない。

「雅伸さん。本当に大丈夫ですか?」

 別荘先での手配と護衛の事を心配して言う譲に椎原は背中と膝の裏に腕を差し入れて背を伸ばし、歩き出す。

「大丈夫だ。工藤も喜んで手を貸すだろう。明日明後日にでも出発できる様手配しておく。」

 だから、と続ける椎原に譲は自分から椎原の首の後ろに手を回して唇を頬に寄せる。

「雅伸さん。」

「ん?」

「大好きです。」

 僅かに頬を染めるその顔が愛おしくて、椎原は笑顔を崩す事が出来ない。

「じゃあ、俺は愛しているから、俺の方が譲に対する愛情が上かな?」

「いえ、僕の方が上ですよ。」

「いや、これだけは譲にも譲れないな。」

「僕も譲れません。」

 言い合いつつも互いに笑顔なので甘言にしかなっておらず、漏れ聞こえた言葉に護衛陣の一人が悶絶している事など本人達は知る由も無かった。

 











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