肝胆、相照らす 3





 向かった先は譲が食事をしているレストラン。

 ・・・では無く、レストランの前。

 護衛の者は反対したのだが、中に入りたくなかったのだ。

「椎原か・・・社長。せめて車内でお待ち下さい。」

 しっかりした体つきの男がそう言っても椎原は聞きもしない。

「大丈夫だ。」

 会長となってからはこんな事は一度もなかっただけに護衛の者は困惑を隠せずにいる。

「すぐだから気にするな。」

 そう言って店の斜め横、ガードレールの前で待つ椎原の前を通り過ぎる人々はその迫力に振り返る者が多い。

 顔を赤らめて通り過ぎるものもいるくらいだ。

 5分程待っていると、木戸に先導されて譲達が出てくる。

 木戸は驚きを隠せずに一瞬足を止めるが、職務を全うするために動き出す。その後ろに居た譲は木戸の足が止まった事を疑問に思って顔を上げると・・・。

「雅伸さんっ!」

 元々機嫌の良さそうな顔だったのが一気に紅潮し、満面の笑みになってから駆け寄ろうとする。

 だが膝が崩れて体が傾く。

 予想の付いていた行動だったので椎原は直ぐに手を差し伸べてその細い体を椎原は受け止めた。

「走るな。後で足が痛むだろう?」

 椎原の体に収まった体に向かって言うと譲は顔を上げて手を伸ばす。抱え上げて顔の距離が近くなった互いの目を見ると、すかさず椎原はキスをする。

「雅伸さん、公衆の場ですよ。」

 一応たしなめるが嬉しげな声の為に何の抑止力にもならない。

 どころか誘っているようにさえ聞こえる。

「お前の唇が柔らかいのが悪い。」

 軽口を叩いてから車に譲を乗せると後ろの木戸、宇治、そして真田に向き直った。

「○○ホテルに向かってくれ。貴方は・・・。」

 木戸と宇治は一礼して直ぐに車に向かう。

 其処に残ったのは椎原と真田のみ。

 だが精悍な顔立ちの真田と多少目付きが悪いものの穏やかな顔つきの椎原二人の長身が並んでいては周囲の気を引くには十分。

 注目され慣れている二人には気にする程のものではない事だったが。

「真田です。譲の高校時代の友人で。」

「真田さん。貴方は今から用事でもありますか?」

「いえ。日本には休暇で来ているので。」

「そうですか。では、食後の様ですが譲も喜んでいる事ですし共にお茶でも如何ですか?」

 社長然とした椎原の笑顔に真田は頷く。

「はい。喜んで。」

 好青年という言葉が似合う笑顔に椎原は内心舌打ちをしたがそれを表に出すほど愚かではない。

「それは良かった。」

 椎原も貫禄ある穏やかな笑みを浮かべて宇治と木戸が乗る車が到着すると、椎原自らドアを開いて真田を促す。

「では行きましょうか。」

「態々有難う御座います。」

 笑顔だ。

 両者共笑顔だったが、意味は違う。

 それを僅かに目を見張って窓ガラス越しに譲は見る。

 ドアを閉めてから直ぐに車に乗り込んだ椎原に譲は聞く。

「真田と・・・・会っては駄目でしたか?」

 恐らく駄目だと言えば今後会う事は無いのだろう譲に椎原は溜息を吐いた。

「いや、だがどんな人物か分からないし、譲の友人というのは始めてだから気になっただけだ。」

「良い人です。雅伸さんもきっと気に入りますよ。」

 笑顔で椎原の腕に自分の腕を絡ませながら言う譲に椎原は苦笑しつつ定位置に譲を乗せた。

 膝の上に載る譲の膝を撫でながら椎原は情人の顔を覗き込む。

「悪いな。狭量なんだ。」

 あっさりと自分の気持ちを言った椎原に譲は頬を染めながら首に腕を巻きつける。

「嬉しい。・・・でも真田は」

「大丈夫だ。分かっている。ただどんな人物か知りたいだけだ。」

 言葉を半ばで止めて言う椎原に譲は花の笑みで持って答えた。

「大好きですよ。」

 譲の髪が椎原の顔に掛かるのを、首に回していた手を解いて押さえながら言った譲は美しい。

「譲。」

「愛しています。」

 互いに微笑みあうとそれだけで二人の世界。

 肩を軽く掴んで顔を上向ける椎原に譲が自分からキスを仕掛ける。そのまま深くなっていく口付けはホテルに着くまで続けられた。 

 











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