肝胆、相照らす 2





 それを宇治のメールで工藤経由で知った椎原の顔は歪み、眉間の皺は今まで見たこと無い程寄っている。

「会長。極悪人の顔ですよ。」  

 工藤が言うと口元を歪めて更に極悪人の顔へと変化させた。

「ヤクザは一般的に極悪人だろうが。」

「だとしても今はスタイリッシュな方が主流ですからねぇ。」

 いかにも、という顔立ちの者は一昔前と比べるとかなり少ない。

 そういう工藤は確かに誰しもがアンダーグラウンドの住人だとは誰も思わない容貌、雰囲気を持っている。

 大手企業のエリートサラリーマンだとよく言われると言われるだけあるのだ。

 ちなみに椎原は社長。実際会社経営もしているのだから間違いではない。

「悪かったな。」

「ええ、悪いですとも。そんな顔で譲さんの前に姿現されては困ります。譲さんを泣かせたら・・・・どうなるか分かっていますよね?」

 言い放つ工藤の顔は笑顔だが・・・・・泣く子も黙るというそれだ。

「お前も凶悪顔になってるぞ。」

「私は今限定ですから。貴方とは違います。」

 椎原の目の前に書類を積み上げると工藤は笑う。

「さて、会長。その真田という男の事は知っていたのですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」

「なんです、その沈黙は。」

「譲が・・・言っていた。高校の時良く話しかけてくれていた相手だったんだと。」

 すると工藤の眉が上がる。

「譲さんが高校生の時というと・・・・・。」

「あのくだらない男の一族が経営している学校に行っていた時の事だ。」

 絶対に楽しくなかっただろうと推察できる高校生活。学校中から冷ややかな目で見られていたといっても過言ではなかっただろう。

 そんな中で気軽に話しかけてきていたのが真田だった。

「それは・・・まあ、譲さんが心許しても仕方ないでしょうね。」

 工藤の言葉に椎原は分かっていても頷けない。

「それは、そうなんだがな。」

 面白くない、というよりも嫉妬してしまう。

「その真田という男調べたのですが、本人の言葉通り、カリフォルニアを中心に離婚弁護士として活躍しています。企業弁護士としても優秀らしくこれからそちらを中心にする可能性は高いのですが、ウチの関係は全く手をつけていません。今回は純粋に事務所立ち上げ前の旅行という可能性が高いようです。」

「・・・そうか。」

「両親はアメリカに渡った後友人の会社の専務となり、今でも其処に勤めているようです。本人はカリフォルニア大学出身で弁護士資格は6つ取得済み、国際弁護士の資格も所有。若くしてこれだけ持っている上に仕事に不自由しないというのはかなり優秀な様ですね。後の調べはまだですが・・・今の所裏のありそうな気配は無いようです。・・・完璧な成功者、という言葉が似合う人物ですね。」

 椎原の眉間は益々寄る。

「・・・・会長。」

「なんだ。」

「極悪人で嫉妬に狂った顔になっていますよ。」

 工藤は笑顔で言い放つ。

「さっきも聞いた。」

 それに一言で返した椎原に工藤は更に言った。

「いいえ。先程は極悪人だけでした。」

 椎原の眉間の皺はもうどうしようもない程酷いものとなっている。

 工藤の言葉遊びにも付き合えない程苛立ちを感じている椎原に工藤は溜息を吐いて助言した。

「嫉妬する前に譲さんと何処か買い物にでも出掛けられては如何ですか?そうですね・・・揃いの着物なんて喜ぶのではないでしょうか。」

 椎原は暫く黙った後立ち上がった。

「工藤。」

「はい。午後からはキャンセルできるかと思います。」

「すまんな。」

「いえ、護衛の手配と店先への連絡がありますから5分ほどお待ち下さい。」

 頷く椎原に工藤は、譲位にしか見せない笑みを見せて直ぐに手配に掛かる。

 その間書類に目を通していた椎原は手配が終わると同時に立ち上がり、外に控えていた護衛と共に堂々とした足取りで出掛けていった。



 











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