肝胆、相照らす 12結局。 譲は熱を出し、3日程寝台の住人となった。 真田は椎原の許可を得て見舞いをし、熱が下がるのを待ってから休暇を早めて帰国する事に。 「もう少しゆっくりしていけばよかったのに、と思うのですが。」 「や、こう見えても俺も忙しい身なんだよ。」 休暇というよりは譲の身を案じて日本に来た事が明白な真田は笑う。 「それに恋人またしてんだよ。せっかくの休暇だから早めに帰って喜ばせてやろうと思ってさ。」 「そう、なのですか。素敵な人なのでしょうね。」 「才色兼備の美女なのに俺に心底惚れているという変わった奴なんだよ。」 「じゃあ、今度休みが取れたら二人で来てください。」 「ああ、お前が来るのもいいと思うけどな?・・・護衛とか大変だから無理か。」 カリフォルニアで譲みたいなのが一人で歩ける筈も無く。 「どうでしょうか。」 「ま、そこらへんは椎原氏と相談すればいいか。」 成田空港発着ロビーの近くの店で談笑する二人の周りには数名の男達が。 本日は宇治、木戸に加えて荒川が近くのテーブルに座ってその前には珈琲が置かれている。 佐々木も来たがったのだが、守られるべき当事者が護衛というのは有得ない。される側だとしても空港という公共の場という事と譲と真田の事を考えて工藤から却下されていた。 「さて、と。もうそろそろ時間だ。」 2,3泊用のバックを片手に立ち上がる真田に譲も立ち上がる。 「ああ、お前は座って居ろよ。あんまり動くと秘書の人が心配するぜ?」 「そこまで重症ではありませんから大丈夫ですよ。」 「嘘付け。車に車椅子入ってんの知ってんだからな。それに俺は湿っぽいのは苦手だからここでいい。」 黙る譲に笑う真田。 「俺もお前も別に何かに拘束されているわけじゃないから会うのは容易い事さ。だからそんな、最後の別れみたいな顔すんなよ。」 な?と大きな手を譲の頭に置くと、宇治の眉間に皺が寄ったが動きはしない。 「じゃあ、皆さんお世話になりました。アメリカで何かありましたら当事務所にご相談を。」 帽子の鍔を少し持ち上げる仕草をして真田は颯爽とした足取りでその場から去っていく。 後ろ姿は大きく、堂々としており譲はその姿が消えても視線を動かすことが無かった。 10数分経過してから宇治が近づき譲の肩を叩く。 「譲さん、会長がお待ちですので戻りましょう。」 静かな声に荒川も木戸も声を出さずに譲を見る。 譲は俯き、手に力を込めて指を内側にした。 白い肌はますます白くなり、色が消えてしまいそうに思えてしまう。 「・・・譲さん・・・。」 俯いてた顔を上げると其処には笑顔が。 「帰りましょうか。」 「はい。」 空港を出ると閑散とした建物の連なりが並んでいる。 飛行機が忙しなく飛ぶ中、譲は遠ざかる空港を車の窓の中から見ながら呟く。 「また、会いましょう。真田。」 宇治は隣から目線だけ見ると、譲が作ったものではない笑顔である事に安堵する。 「宇治さん。」 「はい。」 「僕がアメリカに行く時は一緒に来てもらえますか?」 「喜んで。」 「・・・真田が言ってくれた事、嬉しかったんです。」 「はい。」 「僕は、真田に対して罪悪感しかなかったのに、真田は真直ぐ前を見ていて。それは昔も今も変わらなかった。僕には真田が眩しすぎるのです。でも偶になら。」 会いたいですね、と笑う譲に宇治も笑う。 そうして気付く。 (嗚呼、この人は日向の人でありながら既に日向の住人では無いのだ。) 気付いた事実に胸が痛むのは自己欺瞞。 貴方だけは其処に居て欲しかったという身勝手な願望だ。 譲は望んで此処に居るのだから。 事実、譲の笑顔には一点の曇りも無い。 晴れやかな笑顔に宇治は微笑んだ。 おわり 前へ おまけへ 創作目次へ |