肝胆、相照らす おまけ





 空港から戻ってきた後の話です。





 事務所にて書類仕事をしていた椎原は入室してきた譲を見て僅かに苦笑する。

 その苦笑の意味を正しく捉えた工藤と譲もまた苦笑をしてしまう。

「俺も案外狭心な男だったんだな。」

「それを言うなら僕の方が、ですから。」

 譲は微笑んでから椎原の膝に自ら乗った。

 いつも椎原が手を引いてからの光景となるのでこれはとても珍しい。

「譲。」

「僕はいつでも嫉妬してしまいます。だからでしょうか、今回の事は嬉しいと思ってしまいました。」

 駄目ですか?と甘えるような声に椎原は笑うしかない。

 白い腕を自分の背中に回させて唇を重ねる。

 軽いキスではなく始めから深いキスを。

 興に乗ってきた椎原は口付けに夢中な譲の袂に手を差し込むと体が震える。

 僅かに目を開き、体を震わせる譲に悪辣な笑みでもって応え差し込んだ腕を卑猥に動かす。

 抗議の為だろうか、スーツの端を掴んだ譲だったが色濃い椎原の動きに力を入れる事が出来ない。

 舌を淫猥に動かしていると外から見ても分かる程激しく甘やかに口付けをし、手を動かしている為譲の目元は少しずつ赤らんできた。

 眼光鋭いまま譲が堕ちて来るのを待っていた椎原の目が僅かに細まる。

 そうして譲の裾の方へともう一方の手を伸ばした。

 のだが。

「っいっ!」

 譲の舌を噛みそうになり慌てて口付けを解いた椎原は勢いよく背後を見る。

 其処には工藤が笑顔で立っていた。

 満面の笑みで。

 手には書類が溢れる程詰まっているバインダー。

 痛む後頭部に手を遣ると一箇所が若干膨らんでいる様な気がする。

「仕事中ですよ、会長。それにこんな所で事を運んだら居た堪れないのは譲さんです。」

 譲を見ると僅かに息を乱しつつも耳まで赤く染めて俯いていた。

「・・・すまん。」

「すまないと思うならさっさと仕事を終わらせて譲さんと食事にでも行かれたら如何ですか。」

 譲にはとても甘い工藤の言葉に苦笑してから譲を膝から下す。

「すまなかったな。少し待っていてくれないか。昼食に行こう。」

 譲はまだ顔が赤いままだったが頷き、急いで袂と裾を直して部屋を出て行く。

「自分から膝に乗ってくれて理性を飛ばしましたか。」

 扉が閉まるのを待って工藤がからかいの色強く問えば椎原はあっさりと頷いた。

「ああ。悪かったな。」

「私はかまいませんが、譲さんが後から居た堪れないでしょうから気をつけてあげてください。」

「そうだな。自重しよう。」

「・・・出来るのですか?」

「努力はする、という事だ。」

 ああ、と工藤は某読みで頷く。

「努力は、するのですか。まあ精々頑張ってください。・・ですがいつまでの仲の良い事で。」

「だろう?お前もいい加減落ちつたらどうだ。」

 椎原の言葉に工藤はいつもの丁寧な口調と顔を一転させて悪辣な顔となり嗤う。

「お前に言われたくないな。」

「まあ、そうだろうな。」

 二人の笑い声は密やかだったが扉に背中を預けていた譲の耳に届き、溜息と苦笑を漏らさせた。



 











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