変態はお好きですか? 後編 









   「何が?」

 晃一が微笑みながら湯に入り、芳人を抱え上げて膝に載せて座る。

 二人で湯に浸かるときは大抵この体制になるので羞恥心など無い。

「うん。晃一ってその趣味意外は完璧な人間なのにどうして俺なんだろうって思ってた。」

「・・・今更?」

「うん。」

「俺達結婚してもう8年目だよ?」

「や、結婚して無いから。ソレ言うなら同棲し始めで、だろう?」

「それはともかく本当にどうして?・・・もしかして今までずっとそう思ってたの?」

「・・・まあ、そうかな。」

 晃一の眉間に深く刻まれた縦の線、それは美形だからこその恐ろしさをあらわす顔になっていたが芳人には見えない為に言葉の続きが紡がれる。

「だってさぁ。晃一って顔よし体よしお金ありの上に付き合っている奴にとことん甘いだろう?そんなやつ普通はいないし。多少変わったところ位問題ならないだろうと思うけど。」

 だが呟きというより自覚なしの本人へののろけに晃一の眉間の皺はすっかり消えてしまう。

「そんな風に思うのは芳人だけだ。芳人は誰が見ても魅力的だからね、私だってどうして君が私と付き合ってくれているのか不思議だしいつ君を横からつれ攫われるんじゃないかといつも不安なんだよ?」

「まっさかぁ〜。」

 芳人は笑って晃一を振り返ると其処には真顔の顔がある。

 そんな顔もかっこいい・・・と思ってしまう時点で終わっているな、と思いつつも見惚れるのを辞められない。

「芳人?」

 そしてそんな芳人のうっとりとした顔をあの時の顔みたいだと思っている晃一も終わっている。

「え!あ、うん、何?」

「もう一回いい?」

「う、うん。いいけど・・・・でももう洗ってるから匂いしないよ?」

「匂いが無くても芳人になら欲情する。」

 肩に顔を埋められると芳人の体は震える。

「っんっ、晃一〜。」

「ああ、芳人。可愛いよ。」

 そうして二人の夜は更けていった。





「という事を昨日言われたんだよ。」

「ああそうかい。」

「芳人は自分がどんなに可愛くて魅力的なのか無自覚な所が魅力の一つなんだけど寄ってくる虫の事を考えてちょっとは自覚してほしいと思うのは私だけだろうか。いや、でもこのままでいて欲しい気も・・・・。殆ど家にいるといっても外に出ることはあるのだし、心配だ・・・家といえば今度裸エプロンで出迎えて欲しい。」

「言えばしてくれるんじゃね?」

「そうだな。」

 棒読みの受け答えも気にせずに晃一は語り続ける。

「芳人は本当に可愛くて可愛くて可愛くてどうにかなってしまいそうだよ。意外とわき腹が弱くてね、こう、舌を曲げてしっかりと舐め上げると滴りだしてその滴った感じがまたいいんだよな〜。」

「・・・おい。」

 惚気ながらも腕は動き続け、恐ろしいスピードで書類作成済みの山と決済済みの山が積み上げられていく。

「私の為に風呂に入りたくても4日は我慢してくれてね、その時の下の毛の匂いといったらたまらないよ。ああ、あの匂いを思い出すだけで半立ちになりそうだ・・・。」

「おいっ!変態!!」

 その言葉に晃一は漸く顔を上げて手を止める。

「職場で変態はないだろう。」

「職場で、仕事中に惚気は無いだろう。」

 眉間に皺を寄せた友人兼秘書に晃一はあっさりと言い放つ。

「いつものことじゃないか。」

 そう。コトのあった翌日は毎回毎回詳細をこの秘書相手に惚気ているのだ。

 惚気ているだけだったらガムテープで口を塞いで仕事をさせるのだが、その惚気ている間の仕事が恐ろしい程進む上に仕事の神でも光臨したのかと疑う程に的確なので言わせているしかない。

 おかげで芳人と付き合いだしてから晃一が手がけた仕事はどれも成功ばかり。

 事情を知る人々は密かに芳人をあげまん扱いしている。

 だから多少の惚気は耐えられる。

 耐えられるのだが。

「俺はノンケだ。」

「だから?お前は俺の惚気を聞くのも仕事の内だろう?」

 淡々と言ってから仕事を再開。

 その速さに憎しみが沸いてくるのは致し方ないと思うのは彼だけだろうか。

「・・・お前の惚気には耐えられる。免疫ついているしな。だが・・・。」

「だが?」

 上田はシルバーフレームの眼鏡を上げて叫んだ。

「本番中の事まで語るな!!!語りたいならそっち方面が好きな奴の所へ行け!!!!!!!」

 上田、心の叫び。

「同類に言ったら芳人が狙われるじゃないか。筋金入りのノンケであるお前だから言える事だろう。いいじゃないか。」

 それきり黙ってパソコンを打ち出したのでそれ以上は何も言えずに上田は拳を握り締めて震えているしかない。

「今日は芳人と始めて出会った日だから早く帰るからな。芳人〜・・・あ、裸エプロンで待っていてくれる様にメールを打っておかないと。」

 上田の苦悩など何処吹く風でわが道を進む上司に携帯のボタンを押しそうになる気持ちを辛うじて堪え続けるのだった。

  







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携帯の番号は当然オー○事。書いていて楽しかったです(笑)


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