変態はお好きですか? 前編芳人は不快な思いをしていた。 何故ならもう4日も風呂に入っていなかったから。 しかも真夏。 冷房完備の部屋に住んでいてもベランダやごみ捨て、ちょっとした買い物の際に汗を掻いてしまう。 (ああ〜っ、もうっ!) 汗臭い自分が嫌で仕方ない。 だがそれでも我慢をしていたのだ。 「ただいま。」 眼鏡が理知的な顔を益々怜悧で有能そうに見せている男が機嫌の良さそうな声を出してドアを開ける。 「・・・お帰り。今日こそ風呂に」 言いかけた言葉は途切れた。 「ん〜。いい匂い。本当に芳人の匂いは最高だなぁ。」 ネクタイを外しながら晃一が、芳人の恋人が抱きついてきたからだ。 「って脇に顔埋めるなー!!!」 必死の思いで頭に手を遣りどうにか押しのけようとするが全く無意味な行動に思える程晃一の頭は動かない。 芳人より横も縦もある晃一は嬉々として芳人の脇に顔を埋めた後はシャツを捲って胸元を舐めだす。 「えっ、あっ・・・・な、舐めん、な、よぉ〜。」 と言いつつも妙な声が出てしまうあたり自分も終わっていると芳人は思う。 「ふふ、芳人も気持ち良さそうだね。」 性感帯をうまい具合に舐められて感じない程芳人は不感症では無い。 「ああぅ、ん、ふ、風呂、に入らせ、ろっ。」 「駄目。絶対に駄目だ。この匂いを取るなんて!」 力説しつつ全身を濡れる程舐めていく晃一に芳人は諦めたように手を床に落とした。 そう。 芳人の恋人である晃一は匂いフェチなのだ。 風呂は事後でないと入らせてくれない。 冬はまだいい。 だが蒸し暑い夏に風呂に入れないのは辛いものがある。 頭を洗う事だけは許してくれるのだが、我慢できずに風呂に入ると烈火の如く怒り出す。 例外として晃一が5日以上出張で戻れないときは許可を出してくれるのだが・・・。 その日も事が終わった後疲れきった体を引き摺る様にして浴室へと向かう。 「あ〜、極楽〜。」 処理も終わり、思う存分体を洗ってから浸かる湯船は最高だと芳人は思った。 元々そう綺麗好きでは無いので多少の我慢は出来る。それでも事後に入ることの出来る風呂はいいなと思うようになっていた。 時々本気で別れてやろうかと思うこともあるが、あの性癖を除けば完璧な恋人だしその性癖を許容出来る位には愛しているので今の所別れる気配は無い。 「本当に晃一って匂い好きな所とちょっと独占欲強い所を除けば完璧だもんなぁ。」 今の所サラリーマンで出世街道を駆け走り、掃除をやらせれば埃一つ無い程美しく、料理もプロ顔負けな腕前。洋服のセンスも良く顔も良い上にスタイルも八頭身で腹は割れている。 愛想も良くて恋人には甘く、釣った魚にこそ餌をやるタイプで晃一が何もしなくても文句一つ言わない。むしろ笑顔で料理を作り、事後は芳人が拒まない限り一緒に風呂に入って全身くまなく洗ってくれる。 連休が取れれば旅行に出掛けたりホテルディナーに行ったりもする。 お陰でインドア派な芳人は外があまり好きでない事もあり、気が付くと2週間一歩も外に出なかったという事もあったほどだ。 「芳人〜、私も入っていいかな?」 同棲を始めて既に5年という月日が経過しているにも関わらず、晃一はこうやって風呂場の外からお伺いを立ててくれる。 逆の場合は黙って入ったりするのだが、それでも晃一は怒らない。 「あ〜、うん。もう洗い終わったから大丈夫だよ。」 「わかった。」 そうして一分もたたない内に晃一が風呂場に入ってくる。 手早く体を洗って頭を洗う所を観察していると、つくづくと美しい男だよな、と芳人は思った。 頭を洗っている時でさえかっこいいのは反則だろう。 眼鏡を掛けている時は理知的で格好良く、外せば男の色気満載。 洗い終えた髪を掻きあげる仕草なんて、事が済んでいるにも関わらず芳人の心臓と体の中心を動かすほど。 「本っ当に不思議だよなぁ。」 呟きは浴室で大きく響く。 |