四百四病の外 17





 それで結局。

「若狭の次男が街で適当に依頼した者も居たから関連性が取れなかったという事か・・・。」

 その他は敵対組織の見張りと純粋なストーカーと分類できた。

 若狭組へは伊藤組が間に入ったこともあり、内密に済ますことが決定し若狭組は三和会に負い目が出来てしまったのだが表沙汰になって大恥掻くよりましだろう。

「若狭組の若頭は人間出来ているからな。」

 光があれば陰があり、表があれば裏がある。それを知っている若狭雄司は自ら裏の世界に入り出来うるだけ裏に入れられた哀れな人間をそれ以上惨い目に遭わせない様にしている節があった。

 椎原も僅かながら人の心を残しているのでそういう若狭の困難な道と行為に内心敬意を払っている事もあり、内密にしたのだ。

「これで後はその他有象無象をさり気なく行方不明にするだけですが・・・・会長、譲さんはどうされたのですか?」

 椎原は口元に傾けていたカップを一瞬止めて舌打ちをする。

「宇治・・・口止めをしておいたのに喋ったな。」

「宇治は私の下の者ですよ?報告は全て行きます。そう、全て。」

 解決したことを譲に報告しようと早朝電話したのだが出たのは宇治で。

「休暇を却下されて溜まっていたのでな。」

 若狭雄司と伊藤泰彦から連絡が入ったのは昨日で会談も今後も全てその時に話し合われた。それから椎原がマンションに戻ったのだが・・・。

 譲は本日全ての予定をキャンセルして休んでいる。

 そして椎原は上機嫌だ。

 更に言うならそれらを察した工藤は直った機嫌が再び下降している。

「か〜い〜ちょ〜う〜。」

「いいぞ?また仕事漬けにするか?さぞかし譲は寂しがるだろうなぁ。ここ数日帰れなかったお陰で譲は甘えてくれて・・・。」

 ふっふっふっ、と笑う椎原は本当に上機嫌であった。

 脳内では昨日の夜の出来事を反芻している事は間違いない。

 目の前の存在に痛い目を遭わせたいがそれでは可愛がっている譲が寂しがる。工藤の拳はソファの横で震えたが、ふと、定期報告書の内容を思い出してほくそ笑んだ。

「まあ、仕方ないですね。譲さんが寂しがるというなら私もそれなりに甘くしなくては。ただし、来週からは忙しくなりますよ。定例会がありますからね。」

 工藤があっさり引いたことを疑問に思いつつも椎原は上機嫌で頷く。

「若狭組にも恩を売れ、他の組への牽制も出来てある意味一石二鳥の出来事だったしな。これから忙しくなっても仕方ないだろう。」

 ちなみに椎原の一石二鳥は旅館の温泉での出来事と昨日の事も含まれている。

「鼻の下が伸びていますよ。」

 工藤に指摘されても直さない程度には、椎原は上機嫌であった。

 そんな会話をしている同時刻。マンションの寝室では護朗さんと一緒に寝ている譲の姿があった。といっても目は覚めている。

 ただ寝台から降りない・・・・否降りられないだけだ。

「・・・すみません宇治さん。」

 申し訳無さそうな譲の声は擦れており、艶が視界に移りそうな程である。

 その色香によろめきそうになりつつも宇治は鉄壁を顔面に貼って耐えて微笑む。

「いえ、今日はそんなに重要なことはありませんから。」

 単衣姿の譲は肌蹴た胸元をさり気なく直しつつ俯く。直してさえも赤い斑点は目立ち、尚且つ喉元にもあるので隠しようが無い。これでは動けるようになっても数日は外出はままならないだろう。

「ですが・・・。」

「気になさらないで下さい。この頃忙しかったので休暇になって丁度良いでしょう。私達も、です。」

 宇治の言葉に少し安堵した譲は顔を上げて宇治に微笑む。

 その微笑に物理的な力が加わったらきっと宇治は倒れていただろう。

 それほど婀娜で美しく儚く優しい笑みだった。

(頑張れ自分!)

 拳を自分の爪が皮膚に食い込むほど握り締めて宇治は笑う。完璧な笑顔で笑う。

「いつもありがとうございます。」

 擦れた声に背中の汗が流れた。が、其処で頑張らなくては譲の傍に居る事など夢のまた夢。

「いえ。」

 傍目から見たら艶のある譲によろめきもしない宇治だが内心は大変な事になっている。それをドアの外から眺めつつ木戸は若干の同情を寄せて譲の軽食を作りにキッチンへと引っ込む。

 笑顔の宇治の額に汗が一筋。

 そして溢れる譲の色香。

 そんな妙な雰囲気漂う部屋の中、護朗だけが無邪気な顔をしていた。

 





ちょっと最後は次作の伏線の様になってしまいました。そして副題「泰彦救済作戦」失敗してます・・・・(涙)とりあえず、最後までお付き合い頂き有難う御座いました。





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