愛し恋しと鳴く鳥は



 



「いやぁ、悪いね。譲君。」

「いえ、僕も暇でしたから。」

 宇治と荒川を従えた譲の横には佐々木のお供として酒井が控えていた。

 小鳥の鳴き声がひとつならば可愛らしいのだが複数なので少し疎ましいと感じる程の五月蝿さの中、譲は笑顔で小鳥を眺めている。

 といっても譲が小鳥を求めているわけではない。

 佐々木が新しい恋人の一人に求めたので付き合っているのだ。

 狭いが清潔を心掛けているのだろう狭い店内は今時の小奇麗なペットショップとは違い良く言えば懐かしさ漂う、悪く言えば古いにも関わらず様々な種類の鳥が犇いている。

 そんな中、白いスーツ姿の佐々木と着流しの譲は他に客が居ないとはいえ目立つ。もっとも後ろに護衛が付いてる時点で目立つ事この上無いのだが。

「どれがいいと思う?」

 細かな種類など分からない二人はただ眺めるに等しいのだが、買い求めている本人である佐々木はまったく興味が持てないらしく譲に聞いてきた。

「そうですね、・・・・この子なんてどうですか?」

 指差したのは先程から譲達から視線を外さない白い小鳥。店に入ったときから譲達、というよりは譲一人から視線を外さない小鳥はどこにでも居そうな鳥だが丸々とした体がとても可愛い。

 円らな瞳に僅かに首を傾げた動作はとても愛らしく、女性の心を鷲掴みにする事請け合いだ。

 譲に指を指されたのが嬉しかったのか、小さな声で啼く姿は益々愛らしく思え、譲は佐々木が要らないと言えば自分が欲しいと少しばかり思ってしまう程。

 だが佐々木は頷いた。

「そうだな。じゃあ、それで。」

 佐々木自身は全く執着の無い為譲が指差した小鳥を名前も聞かずに決める。言われた値段に頷いてから籠と餌一式も買い込んで佐々木が笑顔で去って言ったのを見て譲は溜息を一つ吐く。

「・・・佐々木さん、いずれ刺されるんじゃないでしょうか。」

 ちなみに譲が把握しているだけで佐々木とそういう仲の人間は5人居る。既に別れた人も居るかもしれないが、複数である事は確かだ。

「・・・それはなんとも。ですが佐々木幹部は常に複数の女性と交際しているのでその方も心得ているのではないでしょうか。」

「明菜さんを口説いている筈では?」

「あの人が落ちたら他の人は振ると言っていますが、どうでしょう。佐々木幹部は女が複数居ないと耐えられない人だと思います。もっともこちらの世界の人間は本命の他に複数という事は珍しくありませんから。」

 首を傾げる譲に宇治が答えて車へと促す。

「そういうものでしょうか。」

 暗にこちらの世界の人はと問うと宇治は表情筋一つ動かす事無く答えた。

「人によるのでしょうが大体そうです。ですが、会長は譲さん一筋ですよ。この前も寄って来た女性を恨まれるのではと思う程素気無くしていましたから。」

 そうですかと譲は頷いて車に乗ると荒川がハンドルを握りなおして動き出す。

 何時いかなる時でも譲を乗せている時は安全運転を心掛けている荒川の運転は譲にとって心地よく、向かう先が今から一時間は掛かる場所である事もあり自然と目蓋が落ちてきた。

 だが先に着くとはいえ、雅伸との休暇を楽しみにしていた譲は眠りたくない気持ちがあり懸命に目を開ける。それを見た宇治は僅かに微笑んでから車内温度を上げて譲に促す。

「どうぞお休みになってください。」

 宇治の一定音の声が車の振動と共に聞こえて譲は頷く。

「そう、ですね・・。」

 体を横たえると掛かるのは車に載せてある軽いが暖かい毛布が体に掛かるのを感じる。それに包まれながら譲は目を閉じ思考を眠りの海へと飛ばす。

 本格的に眠りに落ちる寸前、何故かその中で小さな小鳥の鳴き声を聞いた気がした。







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