変態と思われても仕方が無い 5安藤は瑞樹の体全てを知っていると言っても過言では無い。 瑞樹が使用するものは全て準備するし、食事メニューも使われている材料も全て日向と共に話し合って揃えている。 実は服装にこだわりの無い瑞樹のスーツやカジュアル着も全て安藤が揃えているし、テーラーと話し合う時は同席するのが当然。 日々の細々とした物全てにおいて安藤の手が経由されていないものは無い。 それこそトイレットペーパーまで厳選して揃えているのだ。 風呂の介添えは当然の事だが、そんな安藤でも唯一人の手に任せているものがある。 ヘアカットだ。 就業時間が終了後に知り合いの店の店長に頼んでカットしてもらうのだが、この時当然安藤は瑞樹の真後ろにてカットが終わるまで傍に居る。 シャンプーを人任せにする筈も無く、店のシャンプー台で瑞樹の髪を洗うのは安藤だが。 その店長は勿論安藤のお手付きである。 だがそれでも瑞樹の美しい髪を他人に任せるという行為がとても、そうとても気に入らない安藤はある事を実行していた。 その日。 安藤は目を三日月にして微笑む。 給料明細を渡した男はその滴る程の艶に欲を掻き立てられたが、そんな事は安藤の知ったことではない。 そしてそれ所では無い安藤は男が欲情している様を見ながら微笑んで二度と訪れないであろう場所を去っていく。 嬉々として男を呼び出す事も無く、真直ぐ家に帰った安藤は瑞樹の私室の扉を叩いた。 「どうぞ。」 ドアを開けると寝椅子にだらしなく体を横たえた状態で本を読んでいる着流し姿の瑞樹が目線を上げる。 「お帰り。」 四六時中共に居ると思われがちの二人だが意外と個人行動が多い。なので瑞樹は安藤が離れている間なにをしているか知らない事もある。 逆は全く無いが。 瑞樹の携帯はGPS機能付きの上に盗聴器はスーツに常に付いているし、歯にも埋め込まれているからだ。 それと安藤の瑞樹専用直感は科学を超えているので常に何処で何をしているか把握されている。 誰と何処で会い何をしているか、外で立ち寄ったカフェで何を食べたか。安藤が知らない事は無い。たとえそれが安藤が知らない相手でもすれ違った瞬間に超能力を備えているのかと思う程気付くのだ。 ストーカーの域を超えている。はっきり言って重すぎるし、不気味だ。 そんな安藤に瑞樹はいつも軽い口調で話す。 「あ、買ってきてくれた?」 主語の抜けた言葉に安藤が笑顔で頷き、紙袋を差し出しお茶を淹れる。 中身は塩豆大福。 「まったく、昼過ぎに食べたいな〜なんて言われて焦りましたよ。何とか手に入ったから良かったものの。」 ちなみに瑞樹はその時も主語を抜かして言ったのだ。「あ、食べたいな。」と。 その時安藤はそうですか、とだけ言ったので瑞樹は流石に無理だなと思ったのだが。 恐るべし安藤。 といっても本日の塩豆大福は東京にある某老舗和菓子店の昼時には売り切れるという有名なそれでは無く、福岡を中心に展開している和菓子店のそれだ。 だがその店も塩豆大福をメイン商品の一つとして売り出しているだけあって十分に美味しい。 差し出された煎茶と共に大福を食べる瑞樹を笑顔で見る安藤は本当に幸せそうな顔をしている。 「あ〜、美味しかった。有難う。」 塩豆大福を食べて機嫌の良い瑞樹に安藤は切り出す。 「ところで瑞樹、そろそろ髪を切りませんか?」 2、3ヶ月毎に切りに行くのだがそれら全て安藤がスケジュールを組むので瑞樹はすっかり忘れていた。 「そうか?ああ、まあ、うん。いいけど。」 時計を見ると夜中の午後11時。 首を傾げつつもまあ、いいかとゆっくりと立ち上がる。 「着替えた方がいいだろう?」 目の前であっさりと帯を解く瑞樹の介添えをしながら安藤は手早く胸の開いたシャツとスラックスを取り出し渡す。 それを何も言わず着替えた瑞樹の手を引いて連れて行ったのは新たに改築したバスルーム。 マッサージ用に使っている部屋の隣を改築したのだ。 其処に連れて行かれた瑞樹は驚く。 美容室にあるシャンプー台が丸ごと其処にあったからだ。 「此処で切るのか?」 頷く安藤にまあ、いいかと大理石特有の冷たい床を裸足で歩いて椅子に座る。 美容室と全く同じように何枚もタオルを使われて椅子が倒され安藤が髪を洗う。 瑞樹がどうしたら一番気持ちよいと思うのか熟知している安藤は丁寧に、丁寧に髪を洗い、気持ち良さそうな顔をしている瑞樹を見て至福を味わった。 だが至福の時間はこれからだ。 洗い終えた髪を少し荒めのタオルで水分を拭き取り椅子を回して鏡と対面する形にしてから安藤が手にしたのは鋏。 安藤の顔は紅潮している。 「・・・・・栄が切るのか?」 首を傾げる瑞樹を安藤はそのままの顔で常備している写真で撮った。そして何処かへと仕舞う。 「ええ。嫌ですか?」 「別にいいけど、この頃遅かったのってこの為?」 「勿論です。私は今までずっと不満だったのですから!」 夜間の美容師学校に行って免許を取り、知り合いの美容師に頼み込んで修行までしたきたのだ。全ては瑞樹への愛故に。 「なんで。」 あっさりと尋ねる瑞樹に安藤は鋏を持っていない方の手を握り締めながら力説した。 「どうしてって、瑞樹のその美しい、私が手入れして輝かんばかりのその髪を!他人に触れさせるという事がどれだけ苦痛だったかっ!それでも腕が良いならばと我慢してきたのです。でもっこれからは!」 一旦言葉を止めて息を吐き、一気に言い放つ。 「瑞樹の髪の末端まで全て私のものですっ!!!!!」 「目的はそれか。」 切った髪は普通捨てる。安藤はそれすらも欲しかったのだ。 「ええっ。切られた髪が捨てられる度に私は何度あの男の首を絞めようかとっ・・・・。」 「実行しなくて良かったな。」 その程度の理由で殺されるなんて不憫すぎるからな、と瑞樹が呟くと安藤は反論する。 「私にとっては十分な理由です!」 だがそれでも他人の髪と混じった瑞樹の髪を拾う気になれなかったのは安藤らしいといえばらしいのだが。 怒りに震える安藤を暫く放置した後瑞樹は言う。 「とりあえず切ったら?」 安藤は笑顔で勿論と言って手を翳す。 そうして僅か十数分で切り終えた髪は美しく輝いており、床に落ちた髪は無事安藤コレクションの一つに加えられたのであった。 「・・・これから先の分まで集める気なんだろうか・・・。」 大まかな話を翌日お茶の時間に三河と日向にした瑞樹は最後にそう言うとお茶を啜る。 何でも無い事の様に言うが、三河と日向は安藤の瑞樹への深く重い愛に青褪め、絶対に何があってもボーダーラインを守ろうと再度心に誓ったのであった。 そんな安藤が今度は手製でバニーガールと某アニメのモビルスーツを作っている事など、瑞樹は知らない。 おわり 1で好き勝手に着せたので服の候補が無いです・・・・どうしよう。 |