変態と思われても仕方が無い 4瑞樹がまたしても地元特集の番組を見て呟いた。 「これ、行ってみたい。」 その言葉に三河は持っていた餡子餅をちゃぶ台に落とし、日向も彼にしては非常に珍しい事に餡子餅を握りつぶした。 決して手に持っていた訳では無いのだが、皿に取り移そうとして落ちたときの為に手をしたにしていた所に餡子餅を落とし握り潰してしまったのだ。 だが冴口は笑顔で頷く。 「いいですね。今から行きますか?」 その言葉に右手を餡子まみれにさせた日向が低い美声で止めようと口を挟む。 「しかし・・・・それは・・・。」 「うん。行こう。」 餡子餅には煎茶が良いと言い張った瑞樹の為に淹れられた(ちなみに日向と三河は玄米茶派。冴口は瑞樹追従派。)お茶を一気に飲み干してテレビを指差す。 「銭湯へ!!!!」 昔ながらの銭湯が映っている画面を満足そうに頷いた。 三河と日向は躊躇いながらも止める術を持たない為に互いを見て溜息を吐くしかない。 「「オーナー・・・・・。」」 既に周りの意見など聞いていないに等しい瑞樹は嬉々としてジャケットを羽織り、安藤が常に用意しているお風呂携帯用セットでは無くタオルのみを持って3人を促す。 「さあ、行こう!」 その目の輝きに逆らえませんでした。 後日安藤に向かって三河が言った言い訳である。 それくらい瑞樹の目は期待に輝いていた。 星が飛んでいるのではと思う程眩しい。 三河と日向は仕方なく、冴口は嬉々として瑞樹のお供をする為に出掛けたのであった。 その際三河が瑞樹の私室から瑞樹専用お風呂道具を持っていったのは褒められるべき行動である。 タクシーで昔ながらの銭湯を、と瑞樹が言って到着したのは本当にドラマにでも出てきそうな銭湯。 入り口は二つで、つい見逃してしまいそうになる程周囲と一体化している銭湯の入り口に瑞樹は呟く。 「・・・煙突は?」 「無くても銭湯です。」 靴を入れてお金を払うと男湯の方の暖簾を潜る前に瑞樹はついでにシャンプーリンス、洗いタオルと石鹸を購入。 しようとして三河に止められた。 「駄目です。」 「なんで」 「○王なんて後で安藤さんに知られれば何と言われるか!オーナーの御髪は安藤さんの努力の結晶なのですよ?!」 ちなみに瑞樹のシャンプー&コンディショナー、トリートメントは安藤がありとあらゆるメーカーで探しに探してこれという一品を見つけた会社に特別オーダーを掛けている、物凄く金の掛かっているものなのだ。 ついでに石鹸は安藤が手ずから最高の組み合わせで作っている手作り石鹸だ。 朝用、夜用、体用、顔用と全て使い分けている。 洗いタオルも当然安藤厳選の品で、風呂上りに使っている化粧水、オイル等も同じく。 更に言うとバスタオル、下着等、瑞樹に関するもの全て安藤が厳選して用意しているのだ。 「でも昔はこれを使っていたから大丈夫。」 そんな安藤の偏執的とも言える執念をあっさり一言で片付けて購入しようとする瑞樹を、三河は自分一人では止められないと判断し助けを求める為に後ろを振り向いて。 固まった。 「冴口さん・・・・・。」 其処にはビデオカメラを持った冴口がたっていた。 「銭湯って、カメラ禁止だと思いますよ。ねぇ?」 番頭に顔を向けると強く頷かれる。 「お客さん、困りますよ。ビデオは上がった際にお返ししますから、こちらで預からせてください。」 一応丁寧な口調だが、顔は不愉快極まりないという顔をしていた。 当然といえば当然の反応と言葉。 銭湯では盗撮等に気をつけなければならないのだから。 冴口が何か言う前に日向が後ろからカメラを取りあげて番頭に渡す。 それから瑞樹を片手に抱えて男湯に向かおうとした。 「ちょっとお客さん、女の人はこっちだよ。うちは混浴じゃないんでね。」 三河は首を傾げた後、言っていることに気付いて慌てて番頭に言う。 「私達は全員男ですから。」 番頭は目を丸くして絶句したまま固まったので放っておいて暖簾を潜る。 幸い空いており、中は3人ほど。 もっとも早い時間なので当たり前といえばそうなのだろうが、実は銭湯は始めての者ばかりだったのでその事は知らない。 まず日向は瑞樹を降ろして手早く服を脱ぎ、貴重品は鍵付きのロッカーの中へ。 「先に入るぞ。」 言ってから中へと入っていく。 それに続いて瑞樹と冴口が中へ。 三河も慌ててそれに続く。 「瑞樹さん、掛け湯をしてから湯に使ってください。出来れば軽く体を洗ってから。」 唯一の銭湯経験者である三河だったが、銭湯は初めてでも温泉は全員経験済みなので問題は無かった様だ。 「何か・・・もっと大きいと思っていた。」 適当に体を洗ってから湯に浸かる瑞樹に三河は苦笑する。 周りに居た中年、老年の男性人は顔が赤い。 それはそうだろう。 絶世の美貌を誇る瑞樹が傍に居て、尚且つ自分と同じ湯船に浸かっているのだから。 若干前かがみの中年が隣に居るのを見て体格の良い日向が瑞樹の隣に座る。 それを見て冴口が眉を吊り上げ、慌ててからだを洗い終えると日向を押しのけて瑞樹の隣へ。 冴口はとても嬉しげに湯の為だけでは無く頬を紅潮させた。 が、三河の顔は青褪める。 日向はさりげなく三河を促して湯船から上がり、洗い場の隅へと移動。 顔を赤くして瑞樹を見ていた中年老年の男性人も顔を赤く、青くしながらさりげなく、だが迅速に湯船を上がる。 なぜならば。 「瑞樹。貴方、其処にある石鹸使いましたね?私が丹精込めて手作りしている石鹸では無く公衆浴場なんかにおいてある安物を使いましたね?」 瑞樹の事ならミクロン単位まで把握し、アンテナが付いているのではと思う程直感を働かせる安藤がバスタオルを体に巻きつけて其処に居たからだ。 胸元がしっかりと膨らみ、後れ毛も悩ましい姿でありながら背後にある何かがとてつもなく恐ろしい。 脱衣所の扉を閉め、一歩ずつ歩いてくる様は瘴気が溢れているのかと錯覚する程。 「あ、安藤さん・・・どうして・・・。」 冴口は呆然と呟くが瑞樹の隣から離れない。というよりも動けなかった。 男湯に今の姿の安藤が居る事自体変なのだが、誰も何も言わない・・・否、言えない。 三河と日向、それと聡い男性ばかりだった集団は安藤が進む先とは別にできるだけ音を殺しながら脱衣所へ避難。 「安藤。銭湯って結構いいものだな。広いし。うちの風呂も大きくしたいな。」 そこで笑顔が作れるのは瑞樹だけ。 「ええ。ええ、二度と貴方が変なことを考えずに済む様に部屋も別荘も改築工事を依頼しましたから安心してください。それより」 一般人には絶対に分からないミクロの差を安藤は憎々しげに見遣った。 「まったく、貴方は・・・・そんな石鹸で適当に洗うからそんなに肌が荒れるのですよ。」 瑞樹の肌は水と光が反射して輝かんばかりの美しさを保っている。 「そう、かな?」 「ええ、そうですとも。せっかく元の珠の肌に戻ったのに・・・・今日は多めにマッサージしますからね。」 豊満な胸を逸らして言う安藤に瑞樹は笑顔で頷く。 その背後の脱衣所にはもう、誰もいない。 その胸の間から防水加工済みのデジタルカメラを取り出し数枚写真を撮る。 満足したのか笑顔で頷いた後、とりあえず瑞樹への説教は終わった安藤は笑顔で冴口のほうへと顔を向け。 「今は公共の場ですから・・・・後で覚悟して置いてくださいね?」 そう言い終えると女湯の方へと去っていった。 冴口は後日の事を考えながら熱い湯の中で青褪めながら震え、瑞樹は人気の無い湯船を存分に楽しんだのであった。 銭湯入り口で三河と日向は珈琲牛乳と牛乳を飲みながら一言。 「安藤さんって・・・・・オーナーの為なら何でもするのですね。」 安藤がタオルを巻いていた訳は自分の体を見せたくないという理由では無く、デジカメを隠すためであった。 銭湯で寛ぐ瑞樹の図が欲しいために態々女性化してから銭湯に来た安藤。 執念という言葉一つでは表せない程愛(?)の深い安藤であった。 「意外と巨乳なんだな。」 一言日向が漏らした言葉が何だか印象に残ってしまった三河だったが、とりあえず。 「安藤さんに連絡して良かった。」 出掛ける直前に共同で連絡した三河と日向は瑞樹を止められなかったことに対してお咎めなし決定。 そして冴口は・・・・・・・・・・・・・・・どうなるのだろうか? 頑張れ冴口。 誰も応援していないが、きっといつかは日の目を見る・・・・・・・・・・・・筈? おわり 今回はかなり大人しい話しになっていますが、軽く犯罪(?)です。そして安藤久々の女体化。彼は瑞樹の為なら何でもやります。 |