変態と思われても仕方が無い 3陣羽織。それは戦国時代より武将が鎧の上から纏うコートのようなもの。 だがしかし!!! それを着る事が出来るのは将の位の人間、そして武功を立てた侍のみ! テレビでは派手なものが多いが、実際は良い素材で良いものを着ていたらしい。 といっても江戸時代はわからないが、ともかく質が良いのはあたりまえ。 甲冑姿に陣羽織を羽織り、長い髪をたなびかせる姿は雄雄しくも美しいものであろう。 ・・・・・・・・・という事を一時間以上に渡って語られた瑞樹は今、一行以外無人の砂浜の上に立っていた。 「・・・・・陣羽織は約束したけど、甲冑までは言ってない。」 甲冑というのは重いのだ。特に興味のあるわけでは無い瑞樹にとって喜ばしいものでも楽しいものでもない。 「陣羽織というのは甲冑の上に羽織るものなのです!!!!」 頬を紅潮させて語るが、現在の季節は冬。 そして雪が降っている。 にも関わらず、安藤の格好は薄手のセーターとジーンズ、軽いコートのみ。 はっきりいって見ている方が寒い格好である。 そしてその後ろでカメラ調整をしている熊さんはなんと長袖のシャツにジーンのみ。 雪が降っているのにあり得ない二人の格好は瑞樹の眉間に皺を寄せていた。 「・・・・・・・・・お前達タッグ組むの好きだな。」 「「利害関係の一致です。」」 今回は無理やり三河も連れて来られたらしく、今は馬の手綱を握っている。三河は冬らしくジーンズに厚手のコート、マフラー、皮手袋と少々着膨れているが、其処がかとなく可愛らしい。 だがそんな事より馬。 黒馬が此処に待機している。 「・・・馬にも乗れと?」 この寒空の下、海風に晒されながら馬に乗れと。 松林を背に熊はフィルムを何回も換えながら写真を撮り続けている。 そして安藤は叫び続けていた。 「瑞樹っ、素敵です!!!!!!」 「あー!!!!!抜刀して睨んでください!」 「海を睨みつける感じで見据えてっ。」 「もういっそ熊を斬ってみせてください!!!」 「髪をたなびかせるその姿、ああ、私の脳内だけに納めたいっ!・・・・っぅつっっつ!!!!!でも、写真にもっ・・・・!」 「っこうっ!海に片足入れて下を見つめてくださいっ。」 頬を赤らめて興奮しながらの態度に瑞樹は呟いた。 「此処に変態が居ますよ〜、誰か居ませんか〜?捕まえないのですか〜。」 といいつつ捕まった瞬間安藤は得意の色香を発揮して捕まえた者達全て喰う事が安易に想像出来てしまい、それ以上は何も言わない。 「・・・オーナー。」 三河からの同情視線に虚しくなりつつ今度は馬に乗る。 この日の撮影の為に乗馬出来るようになっていたのだが、流石に甲冑姿では勝手が違う。 数度砂浜で練習を終えると安藤と三河が砂浜の馬の足跡を綺麗にするのを待って、今度は本格的に走る。 往復して走ると熊さんと安藤からOKが出て、やっと馬から下りることが出来た。 「・・・ああ、やっと終わった。」 甲冑陣羽織姿でも兜を付けていないのは安藤が瑞樹の髪がたなびく姿を見たかったから。 だから頭は重くなかったのだが、甲冑を外すと体が一気に軽くなり安堵の溜息を吐く。 三河から珈琲を差し出されて温かさに微笑みつつ飲んでいると安藤が駆け寄ってくる。 砂浜にも関わらずその足取りは軽く、それ以上に速い。 「瑞樹っ。そのままでいてくださいね!」 そうしてフラッシュの嵐。 其処までは許せる。 曲がりなりにも自らの共犯、共に生きるもの。命を分け合った同輩。 だがしかし。 やっと終わったと思って三河に手伝ってもらいながらキャンピングカーで着替えをしている最中に安藤がカメラ片手に入ってきた。 「瑞樹、今日はこれで終わりですから宿に・・・・っ。」 鎧を外し終えて袴を脱ぐ為に紐を解いていた瑞樹の姿を見て安藤が息を呑む。 僅かに乱れたその姿はとても悩ましく美しく安藤の目には映った。 そうしてやっぱり。 デジカメのシャッター音。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・安藤。」 いつでも何処でも。 そう、何処でも安藤はデジカメを持ち歩いている。 何処でもだ。 防水加工が施された特別仕様のものを、外出時でも仕事中でもマッサージ中でも浴室でも・・・・・・レストルームでも。 「そういうのも色香があっていいですね。」 笑顔で言ってからあっさりと去っていく安藤を見ながら三河が呟いた。 「・・・心中お察しします。」 「・・・有難う。じゃあ、手洗いに行きたいから安藤が入ってこない様に守ってくれ。」 暴走しつつある安藤は狭い個室で用を足している時でさえ入ってくるのだ。 「わかりました。この三河、何があってもお守りしますので!」 妙な連帯感が生まれつつある瑞樹と三河の雰囲気を察して安藤がキャンピングカーに戻ってくるまであと10秒。 安藤の暴走は続く。 おわり 私自身が安藤の変態っぷりにちょっと引いてしまい、話も引き気味な話になってしまいました。 |