落花流水の情 ちょっとしたその後





 そうして其々の部下20名を集めて両者睨みあう。

「え〜、制限時間は一時間です。草は土を払ってゴミ袋に入れてください。根から抜いて無い場合失点とします。それ以外のルールはありません。半分に分けられた敷地内をどれだけ綺麗に出来るかで勝負を決めます。総合判定は私荒川が努めます。互いの敷地を判定するのは互いの下に属する者各2名から選出しておりますのであしからず。」

 言い終えると荒川は息を吸ってから大声で叫んだ。

「それでは始め!」

 男達の応じる声と共に始まった草むしり。

 少数精鋭の三和会は人数が少ないのでほぼ総出と言っても過言では無い。

 その他のメンバーもトトカルチョをしている関係で集まっているので。

 当然佐々木は立ったままだが、工藤は自らも参加して真剣な表情で草むしりをしている。

 それに気付いた佐々木は下の者一名と交代して勢いのままに草を刈り出す。

 草むしりは良い事だ。

 自分達の敷地なのだからするのは当然。

 普段は業者に任せている事だがたまには良いだろう。

 だがしかし。

 スーツ姿で、しかも目を血走せて草を毟る面々は正直に言って。

 恐ろしいの一言に尽きる。

 軍手に一流のスーツを纏った一見サラリーマン風の男達が怒声を浴びせ合いながら草を毟っているのだ。

 一般人はとてもじゃないがその敷地前を通れない。

 通る人が少ない場所である事が幸いし、その醜聞になりそうな光景は僅か数名にしか見られなかった。

 だがしかし。

 見られれば揶揄されそうな人物が偶々其処に居たのだ。

「なんだ、あれ。」

「何でしょうねぇ。」

 神をも霞む美貌の瑞樹と魔性のバーテンダー(笑)こと安藤だった。

 安藤は笑いつつ600万画素のデジカメで写真を撮りながらビデオカメラを回す。

 器用だ。

 だが。

 性格の悪さも此処に極まれりという所だろう。

 心底楽しそうな顔をしながら撮影している安藤とは違い、瑞樹は溜息を吐く。

「まったく。この調子じゃ終わるのはいつになるのか。」

 椎原との仕事での書類に不備が生じた為に仕事前に立ち寄ったのだが・・・・。

 時々三和会は妙な事をする、と瑞樹は思う。

 妙や変というなら瑞樹の周りの者達は人の事を言えない程奇行が目立つのだが、それは瑞樹にとって日常茶飯事なので自覚が無い。

「本当にねぇ、何変な事をしているのでしょうね。」

 言いつつ安藤は口元の笑みを隠せない。

「・・・お前も変だぞ。」

「私は今更でしょう?」

「まあ、そうだが。」

 目を血走らせて草むしりをする極道など始めてみた、と小声で言うのは安藤のビデオカメラにばっちり収められている。

「本当に、変ですね〜。」

「・・・お前もな。」

 ちなみにそのビデオカメラには参加していない面々がトトカルチョをしている光景までばっちりだ。

「ふふふふふ。楽しそうですね。私も参加したいですよ。」

「それが本音なら行って来い。」

「絶対に御免です。あんな手が荒れる事なんて絶っっっっっ対に嫌ですよ。」

 笑みを浮かべたまま言い放つ安藤に瑞樹は溜息を吐いてジャケットを脱ぐと腕まくりをする。

「・・・瑞樹?」

 麗しい美貌と艶やかな髪が夕日に反射して益々美しい。

 毎日、それこそ四六時中その美貌を見ている安藤でさえも見惚れる光景だった。

 が、一瞬にして安藤は我に返り、慌てる。

「瑞樹、何をしようとしているのです!」

「や、工藤さんには借りがあるから加勢して手助けしようかと思って。」

 安藤は叫んだ。

「やめてください!!!!あんな有象無象の男の塊の中になんて行かないでください!!!それに草むしりなんてして貴方の珠の肌が傷付いたら私はっ私はっっつっ!!!!」

 絶叫した為に隠れて見ていた筈がトトカルチョをしている面々に気付かれてしまった。

 だがそんな事は安藤には今どうでも良い事で。

「瑞樹!行かないで下さい!珠の肌がっ!有象無象にっ!!!」

「や、肌の手入れをしているのは安藤だし、別にそれくらいは」

「駄目です!駄目です!!!!やめてください!!!!」

 目に涙を溜めて抗議している安藤の抗議の声は大きかった。

 それに気付かない筈が無い工藤と佐々木は立ち上がり、とりあえずトトカルチョをしている面々を伸してから呆れている瑞樹と縋る安藤の下へと歩いていった。

 デジカメとビデオカメラの映像を消去する為に。

 見た目に反して力の強い安藤はそれに気付き、瑞樹を丁寧且つ慎重に抱えて逃走した。





 そうして後日、会合の余興として公開されてしまった映像により恥を晒された工藤と佐々木はそれを譲を誘拐した面々にぶつけたのであった。









 共同で。

 



終わり









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