待つ時間クリスマスイブ用に用意したご馳走が無駄になった。 「そりゃあ、言っては無かったけど・・・。」 いつもは言わない愚痴を一人なのをいい事に言ってしまう。 部屋付の人には口止めをしている。 だから譲が部屋でご馳走とケーキを作って待っているなんて・・・・。 「でもばれていそう。」 とても申し訳なさそうな声で謝って来た。 『すまん。今日は帰れないかもしれない。本当に悪い。』 余程時間が無いのだろう、慌てた声でそれでも本人から直接詫びの電話をくれた。 その声に仕方ないよ、と苦笑して返したのは自分。 おそらくは何かあったのだろうと察しの付く騒がしいバック音。 気をつけて、と言って電話を自分から切った。 本当に仕方無いと思う。 多忙な人なのに自分の為に出来るだけ時間を割こうといつも努力してくれている。 そんな人が無理そうだと言ったのだ。 仕方無い。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんの少しだけがっかりしているけど。 そんなに忙しいなら、と部屋付の人も事務所に行く様に言ったので外出も出来ない。 「あ〜あ。暇だぁ。」 作ったご馳走を食べる気にもなれず、ピザを注文してそれを食べる。 滅多に食べる事の無いそれは物珍しかったが、椎原が心配なのと一人で過ごす事への寂しさは変わらない。 「工藤さんに聞こうかな・・・・・駄目だ。工藤さんもきっと忙しいはず!」 テーブルの前には椎原へと用意したプレゼントが鎮座している。 それを相手に譲は飲みだした。 普段はあまり飲まないのだが、今日は特別だからと日本酒、ワイン、シャンパンを買って用意しておいたので沢山ある。 それから一時間後。 飲み出して気付いたのだが、日本酒とピザは合わない。 「これって・・・もしかしてお酒も僕を馬鹿にしている?」 その思考をする時点で酔っているのだが本日譲は一人。誰も突っ込む人も止める人もいない。 「うわー!!!!どうせ僕は役立たずですよ!うううううっ。雅伸さんの役に立ちたいよぉ。」 管を巻きながら自分が作ったお守りもどきを抱きしめる。 「雅伸さーん。怪我していないよねぇ。危ない目にあってないよねぇ?」 プレゼントを相手に飲んでいた筈が、相手はいつの間にかソファーに鎮座している巨大熊に変わっていた。 「護朗さん、雅伸さん危ない目にあっているから帰ってくる事が出来無いなんて事は無いよねぇ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 熊のぬいぐるみが答える筈も無い。が、酔っ払いにはその理屈が通用するはずも無く。 「うわぁああああああん!護朗さんが答えてくれない!どうして?!何か怖い事でも知っているの?それとも僕の相手をするのが嫌なの?」 熊を上下左右に揺さぶって答えを求めても何の返答も無い。 「護朗さーん!」 さらに2時間後 「すまん、譲!本当に遅くなってしまって悪かった!」 椎原は玄関口で大声を出しながら急いでリビングに入ると・・・・。 酒瓶が転がる中、譲が熊の護朗に管を巻いていた。 「護朗さん!どうして答えてくれないんだ!雅伸さんは何処?!もしかして護朗さんが、雅伸さんがあんまりいい男だから隠したの?」 最後の一言がもの凄く不安気な声で、それだけでもう椎原は幸せな気分になる。 「譲。」 そのたった一言で今まで護朗に管を巻いていた譲は後ろを振り向く。 「雅伸さん?」 「こんな、暖房も付けずに・・・風邪引くぞ。」 「雅伸さん。」 酔っているだけでは無く、潤んだ瞳で椎原の輪郭を辿る。 目線が合えば、今度は手で顔に触れた。その手は暖かい。 「雅伸さんだぁ。」 華が咲いた様に微笑む様は麗しく。 「そうだ。遅くなって悪かった。」 膝を抱えてキスをすると、益々嬉しそうに微笑む。 「危ない事でも?」 普段は遠慮して聞かない事を酔っているせいか聞いてくる。 「少しな。だが、お前の守りが効いたから大丈夫だ。何とか今日中に片付いたから正月まで時間が取れるぞ。」 「本当に?」 「ああ。」 クリスマスが台無しになった事より自分の身を案じてくれる譲が益々愛おしい。 「譲。」 「ん?」 胸元に頬を寄せて微笑む譲の顔を上げさせてキスをする。 「愛している。」 その言葉に譲は微笑みながら自分からもキスをした。 「僕も愛しています。」 深く優しいキスを時間を掛けてすると譲はそのまま寝てしまったので、抱えて寝室へと連れて行く。 リビングに戻ってから譲が散らかした・・・といってもそこまで散らかってはいないのだが、それらを片付けてから軽くシャワーを浴びて自分も譲の隣に横たわる。 「メリークリスマス譲。」 キスをして抱きしめれば微笑が帰ってくる。 寝ている時でさえも愛情を伝えてくれる譲に椎原も微笑んでから眠りに就いた。 出番の無かったご馳走は次の日日の目を見る事になるのだが、それは今日の二人には不要な話。 「ちっ!」 舌打ちをしたのは事務所に残っている工藤。 「あそこで譲さんと二人でイチャイチャするのがクリスマスってもんでしょうが。」 工藤さん、人格違います。 「でも酔った譲さんは楽しかったですね。」 満足そうに目の前のモニターを切る。 実は。 熊の護朗は名前の通り譲を守る物。 護朗の目にはカメラが仕掛けており、もしもの時に活躍する為に置いてあるのだ。その事は譲は知らない事であるが、椎原は気付いているかもしれない。録画をしているそれを工藤は時々一人で見ている事も。 実際はそんなもしもの事より工藤のおもちゃとなっているのが実情なのだがそれを突っ込む人は誰もいないのでそのままなのだ。 「さて次のイベント事ではどんな面白い事が起きるでしょうかねぇ。」 ・・・・・工藤さん、でばがめも程々に。 創作目次へ |