意外な事実譲の作る板は順々に三和会の者達に配られる。 優先順位は当然上の者からなのだが。 問題は下の者達。 予告なしに譲は現れて意見と名前を聞いていくのだ。 だから順番は上下関係よりも運・・・・・の筈。 その日。 いつものように突然現れた譲に下の者は丁寧に一礼した。 「譲さん。ようこそ。」 「お疲れ様です。工藤さんは今此処に居ますか?」 男なのに細身なせいかとても可愛らしい笑みを浮かべて言う譲に対応する者も自然と笑顔になる。 「はい。只今下の者に指示を出している最中です。内線で伝えますので申し訳ないのですがこちらで少々お待ち下さい。」 三和会の面々はヤクザらしくない顔立ちの者が殆どな上に社員教育(?)をきっちりと施されているのでとてもではないが裏の世界の住人には見えない。 スーツ姿の男達はどこからどうみても普通のサラリーマン。 分かる人にはわかる眼光の鋭さはどうしても隠せないが、大体の人はまっとうな職業の者だと思うだろう。 きちんとした動作で対応した者は応接室に通して玉露と菓子を添えて譲に出す。 「どうぞ。」 「有難うございます。あの。」 「はい。」 その顔は勿論笑顔だ。 「貴方にはまだ差し上げていないですよね?雅伸さんから全員分作ってもいいと許可を貰っているので、希望のものと名前を教えてもらってもいいですか?」 取り出されたメモ帳には毘沙門天や観世音菩薩と書かれた横に名前がついている。 その全てに線が引かれているという事は書かれている名前の者達は既に受け取っているのだろう。 「ではイシュタルは無理ですか?」 戦いの女神イシュタル。 譲は少し考えた後笑顔で頷く。 「ええ。大丈夫です。」 名前を聞いて書き込んだ後一礼した男は退室する。 だがその十数秒後に別の男が部屋に入ろうとしたのを見つけて引き摺っていく。 「頼めるのは一回につき一人まで、という暗黙の了解を忘れたのか。」 凄みをつけて睨む。 「ぐっ、お前まだ貰っていなかったのかよ?!」 「お前は貰った筈だよなぁ?!」 嗚呼、どんなに隠しても彼等はヤクザ。 その顔は凶悪そのもの。 「この間撃たれそうになった時壊れたんだよ!」 焦りを見せるその男の胸倉を掴んで片手で宙に浮かせた。 「それとこれとは関係無いだろうがっ。」 怒声に通りすがった者達が立ち止まる。怒声といっても扉越しの譲には聞こえない程度である所が凄い。 「んだとぉ?!」 うっかり本性出しつつ睨みあいをする二人に集まった野次馬は賭けを始めてしまい、誰も止めない。 小声だが騒ぎになってしまった。 そうして拳で勝負という事になった瞬間。 「何をそんなに騒いでいるのですか?」 内線で呼び出された工藤が笑顔で二人の後ろに立っていた。 拳を構えたまま二人は固まる。 そうして工藤はもう一度。 「譲さんが来ているにも関わらず何をそんなに騒いでいるのですか?」 笑顔で言った。 「・・・・・・・・え、こ、これは・・・・。」 といっても毎度の騒ぎだという事を実は工藤は知っていた。 「何ですか?」 だがそんな事を一々言うほど親切では無い工藤は笑顔でそのまま譲が居る部屋に入っていく。 「あ、工藤さん。」 「譲さん。どうされたのですか?」 「この間の工藤さん配下の方の分が出来上がりましたのでお渡ししたくて。」 そう言って巾着を渡すのを開いたドアから観ていた者達は唖然とした。 「・・・・・どういう事だ?」 「つまりはだな。」 そしていきなり登場の佐々木。 「うわ、佐々木幹部。」 「よぉ。」 無精髭を生やし目の下には隈が出来たその格好は普段の伊達男ぶりが嘘の様である。 「ああ、つまりはだな。一応不文律として会長、幹部連中、譲さんと最初に接触した人というのが板を貰える順位になっているんだが・・・。」 「「が?」」 「本当は工藤の配下の者達は工藤が直接頼んでいるから会長、幹部連中、工藤配下、訪れた際最初に接触した人という順位になっているんだ。」 全員固まった。 「それ・・・・なんで、佐々木幹部も優先してもらってくださいよ!」 「ふっ・・・・俺は忙しいんだ。それに工藤みたいにまめじゃないしな。」 そう言って佐々木は去っていく。 どうやら通りすがりだったらしい。 「あれ、本当は工藤幹部に頭が上がらないから無理なだけだよな。」 「・・・・・うん。亭主関白か?」 言っている人々は見ていなかったが、野次馬の一人は見てしまった。 地獄耳と噂の工藤がその言葉を聞いて凶悪な笑みを浮かべていたことに。 創作目次へ |