ハロウィーンにお菓子はいらない その後ホテルを時間ギリギリにチェックアウトすると、ロビーには微笑んでいる瑞樹が居た。 「その様子だと楽しめたようですね。」 譲には優しげな、椎原にはからかう目線を向ける。 当然二人の反応は違い、椎原は苦虫噛み潰した顔をした。 「それを観る為に態々此処に居るのか。」 「違いますよ。今日は此処のモーニングを食べる為に来ただけです。これはついで。」 といいつつも恐らくチェックアウトギリギリの時間になるだろうと予測して待っていたのだからこちらがメインだというのは間違いない。 僅かにふらつく譲の腰に手を回し、微笑む瑞樹の存在を無視して車に乗り込む。 回数こそ2,3回であるが、時間はかなり長かったのであまり寝ていない譲からは艶が流れている。 哀れ、新人組員の運転手は鼻血を吹くのではと心配するほど顔が赤い。 「雅伸さん。」 椎原の肩に頭を凭れた状態の譲が目線だけで椎原を見る。 「ん?」 潤んだ瞳でそう見つめるのだからたまったものでは無いが、夜疲れさせてしまった事もあって椎原は我慢した。 もっとも表面上は労わりの笑みを浮かべていたが。 「お仕事、は?」 「・・・今日は休みだ。」 その言葉に助手席に座った部下(兼秘書)はメールを打つ。 数十秒後、指を交差させたものを譲の視界外で作る。 「でも、今日は大事な会議があると工藤さんが・・・・。」 根回しは万端だった。 「・・・そうか。」 「はい。僕の為に仕事を滞らせるなんてことは止めてくださいね?」 「だが・・・。」 「お願いします。」 そう言って重い腰を上げてキスをする。 椎原は暫く逡巡した後、ゆっくりと頷いた。 「・・・わかった。」 すると譲は花が咲いたと表現しても良い笑みを浮かべる。 「良かった。僕のせいで雅伸さんに悪評が立つなんて哀しいから。」 キスを送り返すと自然と深く重なった。 「そうか。」 「はい。」 互いに微笑めば自然と甘い雰囲気を醸し出す。 ・・・二人の間にはいつも甘い雰囲気が流れているのだが、それが増量するのだ。 「じゃあ、今日は早く帰ってこよう。体調が良いよいだったら軽く食事でも行くか?」 譲は椎原の言葉に微笑んだが、首を横に振る。 「一緒に家に居たいです。」 お金をかけるよりただ二人で居たいのだと言う譲が愛しくて、椎原はとうとう譲を押し倒してキスをしながら髪や顔に触れ、袷に手を差し込む。 慌てる運転手を余所目に本格的な愛撫になった時。 車が止まった。 「其処までです。」 外側から開けられたドアから工藤の声が響く。 譲は夜の名残を引き摺っていた為にあっさりと煽られた重い体をゆっくりと上半身だけ上げ、それを見た椎原は渋面を作りつつ体を起こす。 「続きは戻ってからになさってください。会議がもう始まっていますよ。」 椎原には零下の目線を向け、 「譲さん、お見送りご苦労様でした。今日は出来るだけ早く戻しますので。」 「はい。有難う御座います。」 譲には優しい笑みを向ける。 それでは、と言って扉を閉めると車は滑る様に走り出し、マンションへと向かった。 「さあ、今日はいつも以上に速度を上げて働いて貰いますよ!譲さんに早めに返すと約束しましたからね!」 きっぱりと言い切った工藤は足音勇ましく椎原を引き連れてビルの中へと入っていた。 ちなみに。 椎原の努力と工藤の零下温度の促しによってその日は普段より早く家に帰れたのであった。 その後の話はもう消してしまっていたので、新たに作ってUPです! 創作目次へ |