注意:この短編は愛おしい人シリーズ「鳴かぬ蛍が身を焦がす」の元となっておりますので多少齟齬がございます。リクエストにより掲載しておりますが、本編と雰囲気ストーリその他違いがありますのでご了承の上読まれてください。

硝子越しの再会 





  「おい、起きろ。」

 髪を掴まれて水を顔面に掛けられた。

 狭い視界に一瞬此処が何処か分らなかった。

 だが、始めから此処が何処かなんて分らなかった事を思い出し、ここに来た経緯が頭の中で甦る。



 仕事帰り、いつもの様に駅前の弁当屋で夕食を買ってから家路に着く。

 駅から徒歩10分。

 その間、夜中といえる時間帯に誰かとすれ違う事は稀だった。

 だが、その日は違った。

 自分の住むマンションまで後5分程という所で、黒いベンツが停まっていたのだ。

(珍しいな。)

 そう思ったが、特に疑問に思うことも無く通り過ぎようとした。

 だが。

 黙って歩き続け、ベンツの横に差し掛かったとき、助手席と運転席から人が降りてきたのだ。 

「江上浩司だな?」

 助手席から降りた方、銀縁の眼鏡と高そうなスーツが良く似合う、だが妙に目線の鋭い男が俺の前に立ちはだかった。

 一応疑問系になっていたが、確信を持った口調で問われる。

「もう一度聞く。江上浩司だな?」

「・・・・そうですが、それが何か?」

 男は白い息を吐きながら整った眉を顰めた。

「では、浅見譲という男性を知っているか?」

 高慢な口調で話しているのに浅見の名前を言うときだけ声が若干柔らかくなった事に疑問を感じながら質問に答える。

「ええ、知っていますよ。ただし現在住所と状況は知りませんがね。それが?」

 笑いを含んだ声で言ったのを確認した男は、傍らに控えていた男に向かって顎を上げた。

 その男は一切の足音を立てず一瞬で俺の傍に来ると驚く俺に、鳩尾に強烈な一発をお見舞いした。

 

 そして目が覚めると此処に居たのだ。

 剥き出しのコンクリートの部屋に右側だけがミラーガラスになっているという不気味な部屋で、椅子縛られて座っていた。

 周りには5人程屈強そうな男と先ほどの眼鏡の男がいた。

 俺が目覚めた事に気付いた奴等は殴る蹴るを黙ってひたすら繰り返した。

 そして今に至る。

「譲さんに会わせてやろう。ただし鏡越しに。」

 眼鏡の男が薄い唇を上げて笑いながら言った。

 俺を殴っていた男達が椅子ごとミラーガラスの前に移動させる。

 そしていきなり目の前の部屋が明るくなった。

 暗い時は気付かなかったが、向こうの部屋はフローリングになっている。

 此処から50cm程低い所に床があるので、多分本来は此処と用途が逆なのだろうと察しがついた。

 つまり、あちらが拷問や尋問をする場所。此方がそれを観察して指示を出す場所なのだろう。

 明るくなった部屋には絵画が数点置かれている。

 眼鏡の男が右手を上げて上に振ると、部屋に居た男達が一人を除いて全員出て行く。

 入れ替わるようにイタリア製だと直ぐに分るスーツ姿の軽そうな男が入って来た。

「工藤、会長ご到着だよ。」

 そう言った男に工藤と呼ばれた眼鏡の男は目線だけやる。

 ドアが閉まると、今度はあちらのドアが開いた。

 入ってきたのは。

「譲。」

 数年前は全体的に薄い色素と相俟って印象の薄かった譲が、此処からでも判るほど華やかな雰囲気に変わっていた。

 肩までの髪に紺色の着物を品良く着こなした姿は普段から着物を着慣れているのが分る。

 譲の後から入ってきた男がドアを閉めると、譲の歓声が聞こえてきた。

 漆黒の髪を緩く後ろに流した長身の男は男から観ても相当の色男だ。

 譲の着物より深い紺色のスーツにワインレッドのネクタイ。厭味なほど決まっている。

『うわぁ。凄い!モネがある!』

 嬉々として絵画の前に立った譲に男が話しかけた。

『どうだ。気に入った絵はあったか?』

 その声は譲を愛おしくて仕方が無いのが此方にまで伝わってくるような甘い声をしている。

『うん。でも、凄い。モネだぁ。あ、この桜の絵も綺麗。』

『その絵は工藤がお前が好きだろうと持ってきた物だ。』

『工藤さんが?』

『ああ。仕事先で見つけて買ってきたそうだ。お前が気に入ると思ったんだろう。』

『うん。これ凄く気に入ったな。』

 譲の声はうっとりとしている。

『部屋に持ってきても良かったんだが、数があったからな。気に入ったのを持って帰ればいい。』

『本当?これ、僕が貰っていいの?』

『その為に此処に連れてきたからな。』

 髪を撫でながら喜ぶ譲に軽いキスをする。

『お前が気に入ったならなによりだ。譲は欲が無いから気に入る物を探すのが大変だ。』

 頬を染めて笑う譲はとても綺麗だと思った。

 自分の傍に居た間そんな顔は一度として見せた事は無かった。

 いつも目線が合わず、虚ろな目をして遠くを見つめていた。その目を少しでも自分に向けたくて酷い事ばかりしていた。

 そんな譲が目の前の男に対してしっかりと目線を合わせて幸せそうに微笑んでいる。

「あーあ。俺が持ってきた絵は好みじゃなかったかぁ。」

 眼鏡を掛けていない男の方が気落ちした声を出した。

「お前の趣味に合うわけが無いだろう。」

 譲が自分の選んだ絵を気に入ったのが嬉しいのだろうか、自慢げに工藤が笑う。

「うわぁ。落ち込んでいる俺にそんな事言うかな。」

 本気で落ち込んでいるらしい男に工藤が更に追い討ちを掛けた。

「お前は趣味が派手すぎるんだ。譲さんは品の良いものを好むから、明菜さんにでも頼んだらどうだ?」

「それって俺の選ぶものは、譲さんは絶対好きにならないと言いたいのか?」

「まあ、そうだな。」

 俺がこの場に居ない様に振舞う二人に普段だったら腹が立っただろうが、今は譲から視線が外せない。

『有難う。雅伸さん。』

 男に囁く声は今まで聞いたどんな声よりも優しく艶やかで。

 譲は自分から近づくと、男の肩に手を添えて抱きついた。

『嬉しい。』

 頭を胸に凭れると、男は譲の顎に手を掛けてあげさせる。

 譲は嫌がるそぶりも無く目を閉じた。

 口付けを待つ仕草に男はゆっくりと被さり、譲の手は背中へと回る。

『・・・んっ。』

 指に力が入り、男の背中を上へ、下へと辿っていく。

 その様は美しく、艶めいていた。

『は、・・・あぁ。雅、伸さ、ん。これ以上は・・・もう。』

 苦しげな声で男の背中に爪を立てる。

『どうした。もう降参か?』

 男の笑う声に譲の指が白くなった。

『だって・・・荒川さん、今日子どもが生まれるかもしれないって言っていたから早く返して上げたいし。』

 ね?と、頬を紅潮させたまま首を傾げて男を促すように頬に手を添える。

『荒川が?俺は聞いてないぞ。』

 男は少し不機嫌な声を出した。

『だって。尊敬する人にそんな事まで言えないよ。だから荒川さんを怒らないでね。嬉しくて仕方無かったからつい言ってしまっただけなんだ。それに僕も嬉しいし。』

 譲が微笑むと男も苦笑した。

『分った。それと荒川は今日はもう返してやろう。』

「おおーさすが譲さん。会長を宥めるなんて本当に凄いよな。」

 拍手付きで話す男に工藤が人睨みして携帯を取り出す。

「ああ。俺だ。荒川にもう帰っていいと伝えてくれ。」

『明日もお休みにしてあげてくれる?』

『いいだろう。』

 微笑む譲に男は優しくキスをする。

「・・・・・明日も休みだ。子どもが生まれたら電話しろと伝えてくれ。譲さんが気にしているからな。荒川の代わりに今から明日まで三木が入れ。」

 携帯を切って内ポケットに直すと工藤はこちらを向いた。

「譲さんはお優しいだろう?下の者まで気に掛けてくれるからウチの組で譲さんはとても慕われている。それこそ新人から幹部まで。」

「俺達もそのうちの一人なわけよ。ちなみにさっきまで居た奴等も譲さんを慕っているよ。」

 向かいの部屋を凝視したままの俺に二人は淡々と話しかける。

 譲と男は本格的なキスを再開して、濡れた音が響いている。

 徐々に崩れていく体を男がゆっくりと床に降ろした。

『・・・雅、伸さ、ん。あの、ここで?』

 息が上がったままの声で譲が問う。

『ああ。お前が可愛い事をするから我慢できなくなった。駄目か?』

 背中に回されていた手が片方だけ肩に添えられる。

『駄目、じゃ、無い。もっと、・・・・キスして。』

 囁く声は直接下半身に来る程だ。

『ああ。いくらでも。』

 男はキスをしながら片方の手を譲の袂に差し込んで胸の辺りで蠢いている。もう片方は髪を優しく梳く。

 乱れていく着物の裾と、ゆっくりと足で床を蹴るように動く脚が譲の官能を伝えていた。

「だからいくら過去の事とはいえお前が譲さんにした事は会長だけじゃなく俺等も許せないんだよ。」

 軽く明るい口調だが、背筋が凍る程、裏側に流れるものが冷たい。

 それでも目の前の光景から目を離せなかった。

「譲さんにこうして会わせたのは温情、かな。」

 工藤が笑いながら言う。

 その言葉は全くの嘘だと判っていた。

 温情じゃない。

 お前がゴミみたいに捨てた浅見譲は自分達にとってこんなに大切な存在なのだと教える為だ。

 だからその大切な存在に疵を心身共に付けた俺を許さないと。

 そう言う事を教える為にこうして見せているのだ。

 男は唇から首筋へと移動して、下から上にゆっくりと舐め上げる。

 譲は顎を上に上げて眉を寄せ、肩に添えた手に力が入る。

 髪を梳いていた手が中心に移動して、裾の中へと入って行く。

『あぁ。雅伸さん!』

 直ぐに濡れた音と・・・声が、した。

 背中に置かれた手が縋る様に動いている。

 上に、下に。

 横に、縦に。

 荒く吐かれる息がする。甘い吐息がこちらまで伝わる程に。

 耳元で何か囁かれているようだが此方まで聞こえない。

 それに対して譲はうっすらと目を開けて、微笑んだ。

 辛そうに眉を寄せて息を吐く姿は何度も観た。

 でも。縋る指も、立てられる爪も、甘く聞こえる吐息も、幸せそうに微笑む姿も全部、知らない。

 男が袂から手を抜いて襟元に手を差し込み、内側から引っ張ると肩から胸元が此方からも見えた。

 右肩から胸にかけて小さな火傷の後が数点付いている。

 そこを男は疵を癒すように優しく唇で啄ばんだ後、きつく吸い上げた。

 その度に譲は小さな声を上げて指に力を込める。数回繰り返した後、男は帯を解いて部屋の端に投げた。

 譲は男を見つめて小さく、だが、幸せそうに笑うと、腕を首に回してキスを求める。

『雅伸さん。キス、頂戴?』

 幼子の様な仕草で、だが子どもには出せない色香を醸し出しながら求める譲に男は笑いながらキスをする。

 深く、熱いキス。

 互いが思い合っていないと出来ないキスだ。

『お前はキスが好きだな。』

 優しく甘い声で譲の頬を撫でながらバードキスをする。

『好き。雅伸さんのキス、一番好き。』

『キスだけか?』

 譲は微笑みながら自分から男の頬にキスをした。その間にも裾の間に入った手は休まらない。

『顔も、性格も、・・・ぁ、雅伸さん、を、慕う周り、の人、も、みんな、すき。』

『俺だけじゃなく、俺のまわり全てか。』

『そ、う。』

 じゃあ、嫉妬するわけにはいかないな、と男の苦笑が漏れる。

『だって、皆、雅伸、さ、んの事、好き、だから。』

 甘い吐息で囁く声はとても優しく、相手への愛情に満ち溢れている。

 男は譲の唇を塞ぎ、手の動きを早めた。

 濡れた音が響く中、声にならない譲の声がする。

 やがて悲鳴じみた吐息に譲が吐精したのがわかった。

 荒い息を吐きながら胸を動かす譲の片足を男は自分の肩に上げて、濡れた手を再び裾の奥に忍ばせる。

 苦しそうに眉を寄せ、だが、顔中にキスを降らせる男に向かって微笑む譲の目から涙が一筋流れた。

 男はそれを舌で舐めとる。

「なあ、あの肩から胸にかけての煙草の跡。お前が点けたんだろう?譲さんの綺麗な肌によくあんな汚い跡を点ける事が出来たよなぁ。」

 前半は俺に、後半は横に居る工藤に向かって言った。

「本当に。背中のナイフ跡や内腿の肉を抉った疵もお前だろう。」

 断言する工藤に驚きの声が重なる。

「えっ!そんな跡まであるのか?」

「ああ、痛々しくて観ていられない程だった。」

 へぇ、と明るかった声が低くなった。

『いいか?』

 男が譲に甘く優しく尋ねる。譲は微笑みながら頷いてキスをねだった。

 キスを一つ落とすと、男が慎重に、ゆっくりと譲の体の中に侵入って行く。

 指先は白く、爪は肩に食い込んでいる。

 それでも息を吐こうと一生懸命譲は努力していた。

 やがて男の動きが止まって、顔に、唇にキスの雨を降らせる。

 しばらく動かずに男は譲の顔を撫でながら反対の手で体の線を辿る。

 寄せた眉が段々と和らいで来たのを見計らって男は動き出した。

 上下に左右に動く腰に合わせて譲の体も揺れている。

 始めはゆっくりと、段々激しくなる動きに譲の顔が上向きになり閉じられていた唇も薄く開く。

『雅伸さん。雅伸さん!』

 もう耐えられない、という風に切羽詰った声に男の動きは益々激しくなっていく。

「うわぁ。いいなぁ、会長。俺も譲さんみたいに優しくて色気のある恋人欲しいよ。」

 勃っちゃったよ、と苦笑しながら言う言葉に工藤は冷たい眼差しを寄越す。

「会長に言うぞ。」

「それは困るけど、あれを観て勃たない男はEDだって。」

 工藤は沈黙している。

 実際俺も勃っていた。

『もう、・・・もうっ、駄目っ。』

 腰に添えられた手に爪を立てて強く握り、開放を願う譲に男は小さく囁いた。

 そして噛み付く様にキスをする。

 強く揺さぶられている体が硬直した後、一気に脱力した。

 荒い息を吐きながら男が首に回された手を外して自分の唇に強く押し当てる。

 それを見ながら譲はまた、笑った。

『愛しているからな。』

 唇を手に押し付けたまま話したのでくぐもった音になったが、こちらにもはっきりと聞こえた。

『はい。僕も愛しています。』

 擦れた、でもはっきりとした声で譲が応える。

 その声と囁きに自分の視界が一気に曇った。

 男がポケットからハンカチだろう、を取り出して、繋がった部分に添えてから欲望を引き抜く。

 その際譲が眉を寄せて小さな声を揚げる。

 ざっと濡れた場所と下腹を軽く拭いてから着物の前を合わせると、男は譲に耳元で何かを囁き小さくキスをしてから部屋を出て行く。

 半分まどろんでいる様子だが、口元は微かに微笑んでいた。

 満たされた顔をしている。

 こんな顔は、知らない。

 自分と居た時、譲は微笑んだ記憶が無い。

 曇った視界に自分が泣いている事に気が付いた。

 縛られた手では動く事も目を擦って譲を見る事も適わない。

「譲さん、綺麗だと思いませんか?始めて会った時、譲さんは何処か遠い目をして存在も希薄でした。
 でも会長は本来の譲さんに気付いて手中にした。私は会長の人を見る目はさすがだと思いますが、あんなに綺麗な人を貶めていたあなたを最低だと思っています。
 それに、譲さんが会長のものになってからウチは幸運続きなんですよ。」

 皆、譲さんが幸運を呼んだと思っています。と工藤が続けた。確かに、俺が譲を傍に置いていた間俺はついていた。一流大学に入り、一流企業に入社して半年で社長と社長令嬢に気に入られて結婚した。だが、譲を捨ててから組していた派閥が汚職絡みで次々と首になり、俺も左遷されたあげく離婚したのだ。

 向こうのドアが開き、男が温タオルを数枚手に戻ってきた。それで譲を丁寧に拭いていく。

 譲はされるがままだ。

「あの人はウチの組にとって既に無くてはならない存在になっている。だから心身共に疵を残すお前が偶然でも譲さんの視界に入っちゃ困るんだよな。」

 近くで話す声よりも、譲の笑い声の方が耳により届く。

 ガラス越しに譲が笑っている。男に囁かれた言葉に笑っている。

 あんな幸せそうで、甘い顔を俺は知らない。

 俺は一度だって譲にあんな顔をさせてあげられなかった。

 もしあの男みたいに優しくしていたら、今頃譲は俺の傍に居たのだろうか。

「・・・譲。」

 掠れてしまった声で名前を呼ぶ。

「お前ごときが譲さんを呼び捨てするな。」

 工藤が足で椅子ごと俺を蹴る。

 椅子が倒れて譲が視界から消えた。

 少しでも長く観ていたいのに。

 この後自分がどうなるか見当はついている。

 それはきっと罰なのだ。

 あの綺麗な存在を貶めて怯えさせ続け、周りから隔絶させた罰なのだ。

「それにもうお前が名前を呼んでいい存在ではとうに無いしな。」

 目の前にいながら硝子越しでしか見れない。

 声を聞けない。

 こちらの声は聞こえない。

 譲。

「譲っ。」

「名前を呼ぶなって言っただろう?」

 指を男の足が勢いを付けて踏みつけた。

 鈍い音と共に激痛が走る。

「会長からお前が譲さんに何をしたか全部聞いているからな。同じ事・・・いや、それ以上の事をしてやるよ。それまでは何があっても殺さないから安心しろ。」

 ドアが開く音と共に複数の足音がする。

 その中の一つがこちらに近づいて来ると、熱いものが顔に押し付けられた。

 肉の焦げる音と匂いが部屋に広がる。

 思わず悲鳴を上げると、向こうの部屋でさっきまで聞こえていた声がした。

「佐々木、こういう事は俺が最初にすると言っただろう?」

 譲には甘く優しい声で囁いていた声が、氷点下の声で男に話しかける。

「すみません。譲さんの事を何度も呼び捨てに呼ぶものですから腹が立ってしまって。

それより会長、譲さんはお一人で帰られたのですか?」

 軽い口調だが、真剣さが滲んだ声で問いかけている。

「いや、疲れて眠ってしまったからソファーに寝せてきた。連れて帰る前にこいつを観ておこうとおもってな。」

「では私は絵を部屋に運んでおきましょうか。」

「直ぐに帰るからその時でいいだろう。」

 工藤の提案に男はあっさりと返して俺の正面に立った。

「おい。譲を傷つけた罪はお前の命で償ってもらうからな。」

 声は笑っていた。

「後は、そうだな。佐々木に任せる。工藤は絵を頼む。」

「判りました。」

「はい。」

 工藤は男に従いドアの外に消えた。

「さて。」

 軽く明るい口調の声が部屋に響く。

「お前らもあっさり殺さないように気をつけろよ?同等以上の目に遭わせるんだからな。」

 その一言がまともに聞こえた最後の言葉になった。





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